昨日から、探検家の関野吉晴氏の『インカの村に生きる』という本を再読している。
ここに登場する「インカの村」とは、ペルーの標高4300mの高地にあるケロ村のことだ。
標高4300といわれてもピンと来ないだろうが、富士山よりもさらに500mも高い。
このケロ村では、インカの時代とほぼ同じ、自給自足の生活が続いている。
本書では、そのケロに生きる人々の暮らし、貴重な習俗の記録が、数多くの写真で綴られているのだ。
どうしてこれほど美しいのか、ため息が漏れる。
この写真の美しさもさることながら、ファインダーを覗く彼の視線もすばらしい。
だがさらに驚かされるのは、彼の体力なのである。
ケロ村までは車の通れるような道もなく、岩山を縫うようにして徒歩で登っていくしかない。
しかも、平地ではない。
標高4300mである。
当然、空気も薄いのだ。
高山病は2500~3000mぐらいで発症するといわれている。
日本人に人気の高いあのマチュピチュ遺跡は標高2400mだ。
あそこでは、近くまでは行ったものの、高山病で目的地まで到達できない人も多いし、毎年何人もの日本人観光客が、高山病で亡くなっているときく。
以前、恩師の相沢韶男先生が、バスでチベットのラサに向かった。
途中で立ち小便しようと思って下車したら、先に用を足していた人がそのままバタッと倒れた、と話してくれた。
そのラサだって標高3600mだ。
かつて私も、ヒマラヤのふもとにあるガントクという街に行ったことがある。
ガントクには、軍隊しか通らないような険しい道を、延々と登っていくのだ。
いたるところに崖崩れがあり、谷底は遥か彼方にかすんで見えた。
そこでせいぜい標高2000mぐらいだったが、私にとっては大冒険だった。
ケロはそこからさらに2000m以上も雲の上なのだから、尋常ではない。
そこに大荷物を背負って徒歩で行くなど、信じがたい体力だ。
高地となれば気温差も大きいはずだから、私など到底生きてたどりつける自信はない。
運良く到達できたとしても、また歩いて降りてくるという試練が待っている。
そんなことに思いを巡らすと、軽いめまいとともに、この写真の1枚1枚のありがたみが、さらに脳天に沁みてくるのであった。