旅する巨人・宮本常一先生との旅

私がまだ学生のとき、当時、吉祥寺にあった武蔵野美術大学の民俗学資料室から駅までの道を、旅する巨人と謳われた民俗学者の宮本常一先生と二人で帰ったことがあった。

資料室から駅までは歩いて20分程度の距離である。いつもは大きな道を2度ほど曲がれば駅に着く。しかし、先生は路地から路地へと曲がっていき、古い家の軒先に立ち止まっては、この家の造りはどこそこの地方のもので、と過去の人間の移動とその歴史について事細かに教えてくれる。また、この木は、この草は、この石は、と目につくもの全ての解説をしてくださった。

最後の路地を抜けると、いきなり目の前に吉祥寺の駅前の雑踏が現れた。わずかな道のりであったのに、どこか遠くの静かな町を旅して帰って来たようだった。

この旅の経験によって、私は宮本先生から見ること・学ぶことの意味を教わった。

そして後年、奇しくも宮本先生が武蔵野美術大学で初めて教鞭をとった「生活史」の授業を、私が受け持つことになったのである。

 

『民俗学の旅』 (講談社学術文庫) 宮本 常一 著

 

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