
海外のホテルでは、日本人の団体客が泊まったフロアはみその匂いがするらしい。
海外旅行にインスタントみそ汁を持参する人は多いから、みなホテルで一斉にみそ汁を作っているのだろうか。
阿川佐和子さんだったかのエッセイにも、ヨーロッパでヘビーな食事に胃が耐えられなくなったとき、1杯のみそ汁で救われたという話があったそうだ。
みそ汁信仰はこうして受け継がれていくのか。
私はインドで暮らしていたころ、高熱で意識のない状態が2日ほど続いた。
やっと立ち上げれるようになったら、それを聞きつけた友人(イタリア人)が、「日本人ならこれだろう」といって、みそスープを作ってきてくれた。
だが、それはどう見てもみそ汁ではなかった。
日本通を自認していた彼の気持ちはありがたかったが、得体のしれないみそスープは病み上がりの体にはきつかった。
あれは一体何だったのだろう。
それでネパールで入った日本料理店のことを思い出した。
私は奮発して、メニューに載っていたかつ丼とすき焼きを注文した。
したはずだったのだ。
ところが出てきたのは、どちらがかつ丼かすき焼きかわからない。
そればかりか何の料理かもわからない。
使われているのが何の肉かも判然としないので、ひたすら不気味だった。
料金は払ったが、食べられたかどうかの記憶はない。
この経験のおかげで食にさらに保守的になった私は、海外に行くと無難なパンだけを食べて過ごす。
そしてみごとにやせ細って帰国するのだった。