
5月も終わりのある日、近所の道路にマムシが出た。
カラスに追われてピョンピョン跳ねているのを、近くの家の奥さんが見つけて旦那さんが捕虫網で獲った。
連絡が来たので見に行ってみれば、30cmぐらいで赤茶色。
色といい太さといい、ミミズをちょっと大きくしたぐらいである。
手を近づければカッと口を開けて威嚇してくるが、かわいいものだ。
ところが駆除にやってきた人の話では、このサイズでも牙がちょっと指先をかすめただけで、肩まで腫れ上がるそうだ。
マムシの毒の強さはハブの3倍というから、アブナイアブナイ・・・。
実は私はヘビには慣れている。
インドにいたころは、切れたロープを見かけたらそれは必ず動くと決まっていた。
部屋のドアノブに手をかけたら、手の上にドサッとヘビが落ちてくる。
池をのぞき込んでいたら、池の底からヘビが湧き上がってくる。
草むらを歩けば、ザザザーッと音を立ててコブラが私の横を滑り抜けていく。
そんな日常だった。
インドで暮らした1年ほどの間に、私が見たヘビは20種類は超えていたはずだ。
そのうちどれが毒ヘビなのかもわからない。
地元の人は、顔に向かって毒を吹き付けるヤツがいるから気をつけろといっていたが、そもそもヘビと顔を合わせるようなシチュエーションは避けたい。
ヘビが多いから、家の周りにはクジャクやマングースがたくさんいた。
彼らはヘビをつかまえて食べてくれる。
夜、月明かりしかない草むらを友人と散歩するときには、必ずイヌを連れて行った。
イヌなら私たちよりも先にヘビやサソリを見つけてくれるのだ。
私の住んでいたエリアではみな裸足だったから、私もめったに靴を履くことはなかった。
たまに靴を履こうとしても、ヘビやサソリやムカデが入っていることがあるから、用心しないといけない。
今でも、ひっくり返してターンと叩きつけてみてからでないと靴が履けない。
椅子に座るときだって、足を地べたには降ろさない。
みな座面に足を上げて座るものだった。
行儀よりも身の安全優先だ。
この癖もどうも抜けていない気がする。
もちろん寝るときのベッドメイキングも重要である。
あの天蓋付きのベッドというのはダテではない。
蚊帳のすそをしっかりとベッドの下にたくしこんでおかないと、ヘビが夜這いにやってくる。
それなのに、冷房もない部屋ではあまりに暑くて、いつしか床に転がって寝ていた。
夜にはコウモリが飛び交い、ふと目をやると、ネコほどもある大ネズミがトカゲやゴキブリを食べている。
部屋のなかで、だ。
今考えればすさまじい生活だが、結局いちどもヘビには咬まれずにすんだ。
ただし、スコーピオン・アントというアリにはよく咬まれた。
サソリ蟻というぐらいだから、こいつに咬まれるとかなり痛い。
だがもっと痛いのはそれからだった。
あるとき、スコーピオン・アントに咬まれた脚が化膿した。
パンパンに腫れ上がってしまったので、消毒してもらおうと思って近くの村の診療所に行った。
ところが医者は何の説明もなく、いきなりその腫れた部分にメスを突き立てた。
そして大きくえぐった。
麻酔もしていないのだから、激痛だ。
しかもそのえぐり取ったドカ穴に、消毒ガーゼをグイグイ突っ込むのである。
意識が遠のくほどのこの痛みは、わが人生2番目にランクする激痛体験だった。
さらに患部が治るまでは、毎日ガーゼを取り替えなければいけないから、激痛体験も日々記録更新だ。
あれから20年以上経つというのに、私のむこうずねには、今もその思い出が深々と刻まれている。
全くもってヘビーな体験なのだった。
■マムシに咬まれたら・・・
マムシの毒は血清があれば対処できるが、2度目からは血清が効かないから耐えるしかない。
そう聞いていたのに、血清でショック状態に陥る人がいるので、最近は積極的には使わないようだ。
(参考:荒尾市民病院「まむし咬傷について」)
そうなると、まずは救急車を呼んだうえで、一刻も早く毒を押し出すことが肝心らしい。
このときまちがっても口で吸ってはいけない。
「口で吸え」と書いてある専門サイトもあったが、口に傷でもあったらそれこそ危険なので禁忌だそうだ。
これを知って、早速私はポイズンリムーバーを買った。
毒を吸い出す小さなポンプである。
蚊やスズメバチ、アブ、ブヨあたりにも有効らしいから、きっと無駄にはならないだろう。
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