シリーズ【アシンメトリ現象を解剖する】3

『背骨のズレと鎮痛作用の神経伝達のしくみ』


 前回の当誌では、「アシンメトリ現象」で知覚の鈍麻が起こるのは、背骨のズレによる刺激で内因性オピオイドが作用するからだと説明した。

しかし以前は、内因性オピオイドではなく、外因性オピオイドであるアルカロイドの影響なのだろうと考えていた。

ではなぜ、アルカロイドの影響だと考えたのか、その経緯を説明しておきたい。


 私が最初に「アシンメトリ現象」を発見したのは、末期がん患者の体においてであった。

その後、他のがん患者の体にも同じ特徴があることがわかって、戦慄したのである。

だが、「アシンメトリ現象」ががん患者の体に共通しているなら、この現象の解消ががんの治癒につながることも予測できた。

私はそこに希望を持った。


 ところが彼らの背中は、まるでテーブルのように硬くなっていて、全く手に負えない。

多分、彼らの体のどこかに、背中をテーブルのように硬くしてしまう、特殊なスイッチがあるのだろう。

そのスイッチさえオフにできれば、背中も柔らかくなるかもしれない。

そう考えて、私は悪戦苦闘していた。


 そんなあるとき、たまたま一種の体性感覚刺激を加えてみたら、突如として知覚の鈍麻が解消された。

それと同時に、形態的な異常(「アシンメトリ現象」)にも変化が見られた。

テーブル状だった背中が、一瞬にしてソファーのように柔らかくなったのである。

これだ! 

そう思ったのもつかの間、すぐまた元に戻ってしまってガッカリした。

しかしこの体験によって、「アシンメトリ現象」には、何らかのスイッチが存在することまでは確認できた。

そしてこのときから、そのスイッチ、いわば病気のリセットボタン探しが始まったのである。


 それからまた何年かの試行錯誤を経て、あの一瞬のできごとの再現には成功した。

その体性感覚刺激を、一連の手技(「神経刺激」)として組み立てることもできた。

この手技は末梢神経へのアプローチではあるが、それなりに結果は出せていた。

しかし、これをリセットボタンと呼ぶには煩雑で、手技の難易度も高い。

これでは「腰痛からがんまで家庭で治せる病気にする」という目標には遠いのだ。

やはりなんとしても、大本のスイッチを見つけなければならない。


 それでは「アシンメトリ現象」のスイッチが入った配電盤は、体のどこにしまわれているのだろうか。

そこにつながる配線はどうなっているのか。

そもそも、だれがスイッチをオンにしたのだろう。

だれも知らない現象であるがゆえに、その答えを知る人もいない。

そこで、「アシンメトリ現象」の特徴と、がんという疾患の諸要素を並べてみて、どのような犯人が想定できるかを、帰納的に推理してみた。

すると初めに浮かんできたのが、アルカロイドの存在だったのだ。


 アルカロイドを一言で説明するのはむずかしい。

自然界の動植物に含まれる有機化合物の総称であり、アルカロイドの多くは他の生物に対して有毒である。

しかし、アルカロイドは非常に身近な物質で、カフェインをはじめ、ニコチンやモルヒネなども含まれており、さまざま食品、嗜好品、薬品としてかなり古くから利用されてきた。

2019年現在も、ある種のアルカロイドは抗がん剤として使われている。

その抗がん剤を投与されると、患者の体には見事なまでに「アシンメトリ現象」が際立ってくる。

また喫煙の後には、ニコチンの作用で「アシンメトリ現象」の度合いが急激に変化する。

禁煙中の男性が、昼休みに隠れてタバコを吸ってきたのも、顔を見ればすぐにわかる。

他にも、漢方薬にはアルカロイドを含むものが多いため、薬を服用した途端、体の形や感覚が激変するのを、私は何度も目にしている。

こうやって状況証拠を並べていくと、アルカロイドが「アシンメトリ現象」の犯人である可能性は、極めて高かった。

しかもアルカロイドの多くは、れっきとした発がん物質でもあるのだ。


 ところがこの発見から10年以上が過ぎ、さらに研究が深まるにつれて、犯人はアルカロイドだけではないこともわかってきた。

長年、別の現象だと伝えてきたのに、実は背骨のズレが、「アシンメトリ現象」にも関与していることが判明したのである。

この結論には自分でも多少ひるんだが、前言撤回はやむを得ない。

新たな事実の登場によって、仮説が覆ることなど科学の世界なら日常だ。


 だが、それならそれで話は早い。

背骨のズレが原因の一つであるなら、ズレを戻せばよいだけだ。

おかげで、「アシンメトリ現象」にまつわる疾患への対処の仕方も、大いに進化した。

とはいえ、相変わらず「アシンメトリ現象」そのものは、一旦現れたらなかなか消えてはくれない。

左右差をスパッと消せればいいのだが、そちらについては未だ開発途上である。

さしあたって疾患さえ抑え込めれば、大きな問題はないだろうと思っている。


 ではここでもう一歩踏み込んで、背骨のズレがどのようなしくみで、「アシンメトリ現象」の知覚の鈍麻に関わっているのかも見ておきたい。

まず、背骨がズレると、知覚神経である脊髄後角に対して機械的な刺激が加わる。

これがいわゆる腰痛や膝痛など、さまざまな体性痛の原因である。

ところがなかには、背骨が大きくズレて、明らかに脊髄後角を刺激しているにもかかわらず、何の痛みも出していないことがある。

この場合は、ズレによる痛みに対して、何か特別な鎮痛作用が働いていると考えられるのだ。


 アルカロイドが「アシンメトリ現象」に関与していることは間違いないのだが、ここまでのレベルとなると、アルカロイド単独では説明がつかない。

アルカロイドでは小者すぎるのだ。

全く別の、もっと強力な鎮痛システムが働いているはずだ。

そこで候補として浮上してきたのが、内因性オピオイドなのである。

内因性オピオイドの作用については、前回以外にも書いた()ので、今回は少し補足しておきたい。


 脊髄後角に対する疼痛抑制システムには、主にセロトニンとノルアドレナリンの2つの系統があり、内因性オピオイドによる疼痛抑制は、セロトニン系である。

セロトニン系の疼痛抑制のシステムは、まず脊髄後角への刺激が脳の視床へと伝わることで始まる。

次に中脳のPAG(中脳中心灰白質)から、下行性疼痛抑制の信号が、RVM(吻側延髄内側部)に向かう。

そしてRVMのNRM(大縫線核)を通って、脊髄後角における疼痛が抑制される。

RVMにはオンとオフとニュートラルの3種のニューロンがあるが、このうちのオン細胞とオフ細胞が、背骨のズレによる疼痛抑制に関与しているようだ。

内因性オピオイドは、このオン細胞のμ(ミュー)受容体に作用して、痛みの伝達を抑制するのである。


 かなりむずかしい話だが、前にこのしくみについて書いた2003年当時は、先端科学の世界ですら、この神経伝達のシステムがほとんど解明されていなかった。

その乏しい知識で苦心して導き出した答えとして、ここに関与しているのはRVLM(吻側延髄腹外側部)だろうと書いた。

だがここで改めて、RVLMではなくRVMだったと訂正しておきたい。

もちろん背骨のズレとの関係が実証されるのは、まだまだ先のことだろう。

しかし神経伝達のシステムが科学的に解明されるたびに、「アシンメトリ現象」の謎解きも少しずつ前に進む。

その進歩に期待して、今後も注目していこうと思っている。

花山 水清


    ※370号『 本当に怖いのは、痛みを出さない沈黙のズレ

形態や感覚などに見られる「アシンメトリ現象」の特徴50
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