『 アシンメトリ現象のペルケ・ペルケ 』


 前回までの当誌では、9回にわたってさまざまな角度からレオナルド・ダ・ヴィンチと「アシンメトリ現象」についてお伝えしてきた。

今回からは、「アシンメトリ現象」の新たな発見を含めて、この現象の全体像を書いていこうと思う。


 作家の塩野七生は、その著書『ルネサンスとは何であったのか』のなかで、バートランド・ラッセルの言葉を引用しながら、ダ・ヴィンチくらい「なぜ」で生き通した人もいなかったと語っている。

そして彼が「ペルケ、ペルケ、ペルケ」とつぶやきながら、部屋のなかを行ったり来たりしている姿を想像したそうだ。


 ペルケ(perche)というのはイタリア語の「なぜ」である。

ダ・ヴィンチが自分に「なぜ」という問いを繰り返していたのは、彼が科学的な思考をしていたからだ。

思えば私も、「アシンメトリ現象」を発見した瞬間から、「ペルケ、ペルケ」の連続だった。


 そもそも「アシンメトリ現象」は、教科書に出てくるような、すでに存在を証明された現象ではない。

それどころか、だれにも知られていなかった。

そのため、私の疑問に対する答えなど、どこを探しても見つからない。

一から十まで全ての解答を、自分の頭で考え出すしかなかったのだ。


・なぜこのような現象が起きるのか?
・なぜ左側なのか?
・なぜ左側だけなのか?
・なぜこの現象にだれも気がつかなかったのか?
・なぜこの現象の存在を伝えてもだれも驚かないのか?
・一体いつからこの現象は存在していたのか?
・この現象の原因は何なのか?
・なぜこの現象は特定の疾患と関係しているのか?
・仮にこの現象を消し去ることができたら、関係した疾患も消えるのか?
・どうすればこの現象を消し去ることができるのか?


このように次から次へと疑問が湧いてくる。

そして「なぜ」に対する答えが見つかる度に、またすぐ次の「なぜ」が生まれる。

まるで、疑問と解答とが永遠に連鎖するかのようだった。

しかもこの連鎖には、必ず規則性の発見が伴っていたのである。

そうやって尽きることのない問答が、私の頭のなかで20数年も続いてきた。

ところが昨年の発見によって、パズルの最終ピースを手に入れることができた。

これでようやく、巨大で難解な疑問の塊だった「アシンメトリ現象」が、その真の姿を現したのである。


 実はこれまで、「アシンメトリ現象」を語るうえで、常に1か所だけ言葉がよどむところがあった。

これは、「E=mc2」という公式にプラスいくつかの端数がつくようなもので、何とも収まりが悪かったのだ。

どうにかしてこの端数の部分を取り去りたい。

そう願ってきた。

だが公式の美しさを求めるあまり、事実を捻じ曲げて捉えるようなことがあってはならない。

まして、人の体を使って実験するようなこともしたくなかった。

私には結論が見えているのに、そこにたどりつく道が見つからない。

このもどかしさを抱えて長い年月が過ぎた。


 ところが今回の発見によってはっきりと道筋が見え、端数の部分を取り去ることもできた。

おかげで長年イメージしていた通り、端正とも呼べるほど美しい公式ができ上がった。

この公式の完成で、私は非常にさわやかな気もちになれたのである。

それと同時に、この現象がいかに特殊であるかを改めて認識した。

「アシンメトリ現象」というのは、左半身の形態と知覚に特異的に現れる、規則性をもった現象であることは再々お伝えしてきたが、これで「完全に」左一側性の現象であることが確認できたのである。


 この左一側性という言葉は私の造語である。

通常、右利きや左利きのように、左右どちらか一方という場合は「側性をもつ」と表現される。

しかし「アシンメトリ現象」は必ず左側だけに現れるので、左一側性という表現を使うことにしたのだ。


 もちろん体の単なる左右差を扱う研究なら、生物学や心理学でも一般的である。

孔雀の羽にある目玉模様の左右差や、ヒトの顔が左右で印象が違うことについての研究も、よく知られている。

だがそのような「性質に左右差がある」というだけの現象と、左一側性の現象とでは、研究の領域が全く異なる。

そしてこの違いが意味する重要性が、なかなか理解されない部分なのだ。


 例えば1960年のアメリカで、電波望遠鏡を使って地球外の知的生命体(宇宙人)からの受信を試みる、「オズマ計画」という実験があった。

科学ジャーナリストのマーティン・ガードナーが、この実験にちなんで「オズマ問題」と名づけたサイエンスの難問も、当時は話題になっていた。

「オズマ問題」とは、「普遍的な物理現象として、現象や法則や物質において左右非対称性は存在するのか」という問題である。

つまり、宇宙人に左右の概念を伝える方法はあるのか、という問いなのだ。

これは哲学者カントが1768年に発表した、「口頭での説明だけでは左と右の違いは伝えられない」という内容の論文に端を発している。


 左右の概念を伝えるだけなら、何も難しいことではなさそうだ。

しかし「オズマ問題」には、前提条件が2つ設定されていた。

それは「宇宙のどこでも地球と同じ物理学の法則が成り立つこと」と「地球人と宇宙人との間に、共通に観測できる左右非対称なものがないこと」である。

この後者の条件を満たすとなると、当時の先端科学をもってしても即答できる問いではなかったのだ。


 そこで、この問題を解く方法としてガードナーが考えたのは

 ・磁石の南北の極
 ・電流の誘導
 ・水晶の光学的回転
 ・D-およびL-アミノ酸
 ・惑星の回転

などを利用する案だったが、彼の試みはことごとく失敗に終わった。

後年、物理学者のチェンシュン・ウーが1956年におこなった核物理学の実験(※)の結果を利用することによって、問題は解決したようだ。

(※「ウーの実験」として有名な、放射性元素コバルト60のベータ崩壊を利用した実験)


 いずれにしても、何も素粒子までもち出さなくとも、私に訊いてくれれば話は早い。

「アシンメトリ現象」も電子やニュートリノのスピン同様、物理学的な方向性をもった現象である。

そのため、宇宙人の体に「アシンメトリ現象」があるかどうかを確認してもらえば、すぐに説明がつくのだ。

しかも「アシンメトリ現象」は、必ず左一側性なのだからまちがいようがない。

この場合の左一側性とは便宜的な左右ではなく、本質的に左右が違うという意味での「左」である。

いいかえれば、相対的ではなく絶対的な意味での「左」のことなのだ。


 宇宙人の体のことなどもち出すと冗談のようだが、宇宙人といえども、体は物理の法則に従った構造であるはずだ。

数学者のマリオ・リヴィオも、「SF映画に出てくる宇宙人は決まって左右対称の姿をしている」と指摘している。

彼は、生物学的に進化した宇宙人が対称性をもつ可能性について考察したうえで、「物理法則、とりわけ重力と運動の法則が普遍的であることを踏まえれば、対称性の可能性は大いにある」と結論づけているのである。

彼のいうように、宇宙人がわれわれ同様に左右対称な姿であるなら、そこに「アシンメトリ現象」が存在する可能性も大いにあると考えられる。

さらに彼らの体にも、「アシンメトリ現象」に連動した疾患が見られるかもしれない。

もちろん、宇宙人の文明が地球よりも進歩していれば、「アシンメトリ現象」を消去する方法ぐらい確立しているだろう。

まだ克服できていないなら、地球に「モルフォセラピー」を習いに来ればよい。

そんなことを想像すると、少し笑える話ではないか。


 「オズマ計画」以降も宇宙への関心は高まり続けている。

1972年には、さらなる試みとして地球からのメッセージを刻んだ金属板が、探査機とともに宇宙に送られた。

そこにはイラストで人間の男女の姿も描かれていた。

このとき「アシンメトリ現象」のイラストも加えておけば、今ごろ他の惑星から大きな反響があったかもしれない。

一方、地球人に向かっては20年以上も発信し続けているというのに、あまり芳しい反響がない。

やはり「アシンメトリ現象」の存在も、宇宙人から教えられるようになって初めて、理解の対象になるのだろうか。

それがあまり先の話ではないことを、私は祈っている。


参考・引用文献
ルネサンスとは何であったのか 』塩野 七生 著 p.103
自然界における左と右 』マーティン・ガードナー 著 p.217-218
なぜこの方程式は解けないのか? 』マリオ・リヴィオ 著 p.20
左と右の科学 』図解雑学 富永裕久 著 p.66-69、p.200-201
非対称の起源 』クリス・マクマナス 著 p.91-93 

(花山水清メールマガジン 「月刊ハナヤマ通信」 

 

 

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