『  ダ・ヴィンチ健康法 <まとめ> 』


 私は人体の規則的な左右差である「アシンメトリ現象」を発見して以来、この現象と関係していそうな、鑑真や重源、ゲーテ、アリストテレス、ヒポクラテスなど、さまざまな歴史上の人物を調べてきた。

そのなかでもレオナルド・ダ・ヴィンチほど、私の興味を引く人物はいなかった。

彼は単なる画家という範疇にはくくれない、極めてユニークな人物なのである。

そして彼の資料を調べれば調べるほど、彼が何を考え何をなそうとしていたかが、私のなかで鮮明に浮かび上がってくるようになった。

そこで当メールマガジンではこれまで4回に亘り、ダ・ヴィンチの思考を借りて健康について考察してきた。

今回はそのまとめの章である。


 このシリーズで、「ダ・ヴィンチ健康法」と題して「」「排泄」「睡眠」の3項目に分けてお伝えしてきた内容は、時代を超えてだれもが健康を独力で達成するための、一つの目安となるだろう。

また、健康を維持するには、自分の努力以外に医療との関わりも避けては通れない。

ところがダ・ヴィンチとなると、彼はとんでもない医者嫌いだったことで知られているのである。

 
 フランスの美術評論家であるセルジュ・ブランリ(1949~)によれば、ダ・ヴィンチは

「君の健康を保つ務めは、医者を避ければ、なおいっそううまくいくであろう。なぜなら彼らの薬は治療よりも一種の錬金術なのだから」

という辛辣な記述を残しているそうだ。

他にも、医者のことを「生命の破壊者」と呼んでいたという記録まである。


 確かに、ダ・ヴィンチの生きた時代(15~16世紀)の医者がおこなっていたことは、医療とも呼べないほどお粗末なものだった。

ようやく医療として効果を上げられるようになったのは、A.フレミングがペニシリンを発見した1928年以降のことなのだから、それまでの医者には病気を治す力などほとんどなかった。

治せないだけならまだしも、ヒポクラテスの四体液説が長らく医療の主流だったせいで、19世紀になってもまだ、医者は瀉血(しゃけつ)を盛んにおこなっていたほどだ。

瀉血というのは、体から悪い血を抜き取ることで病気が治ると信じられていた療法だが、血を抜いて治る病気などない。

アメリカの初代大統領ジョージ・ワシントンが、何度も瀉血されて失血死したのは、医療史における悲劇の逸話として有名である。


 だが、何がダ・ヴィンチをかくも医者嫌いにしたかについては、具体的な記述はない。

医者から受けた不適切な治療や、彼らの不愉快な態度だけがその理由ではないだろう。

あの時代には、ダ・ヴィンチほど人体の構造に精通した人間はいなかった。

その彼から見れば、どの医者の知識も物足りなく思えて当然だ。

しかも、ダ・ヴィンチは時代を超越した天才であったのに、これらの発言当時の彼には、その才能に見合うだけの評価や収入があったわけではない。

この状況から考えれば、不相応な評価と収入があった医者という存在は、彼にとっては腹に据えかねるほど不快なものだったのかもしれない。


 私も先日、ある医師が書いた本を読んでいて思わずページを繰る手が止まった。

そこには、「昔は乳がんの治療で腋窩リンパ節を全て廓清していたが、今はそんなことはしない」などとシレッと書いてあった。

この医師の感覚では「昔」のこととして片づけたいのだろうが、われわれにしてみればつい最近のことである。

「昔」受けた廓清手術の後遺症で、「今」も苦しんでいる人がいるのではないか。


 ダ・ヴィンチの時代の医療が、現代では「トンデモ医療」と呼ばれるように、現代の先端医療ですら、次の世紀には同じ運命をたどる可能性は高い。(※2003年12月配信「空想未来医学小説」参照  )

医学を含め、科学の歴史というのはこの繰り返しなのだから、医療者はこの事実と謙虚に向き合ってほしいのだ。


 だからといって、私は何も現代の医療の全てを否定するつもりなどない。

医療との距離の保ち方が重要だといいたいだけだ。

極端に思えるダ・ヴィンチの発言にしても、医療との関わり方への戒めだろうと思う。

医療を信頼することと病院に通いつめることとは、別のものなのである。


 現代は医療だけでなく衛生や栄養面においても、生活環境が飛躍的に改善している。

おかげで寿命が延びたのだから、健康な人も格段に増えているはずだ。

それなのに、自分の健康に不安を抱いている人が減ったようには見えない。

むしろ増えている気すらする。


 彼らがもっとも恐れている病気はがんだろう。

がんは若くても発症するだけでなく、死ぬ確率も依然として高いからである。

ところがほとんどの医師は、「がんは早期発見、早期治療をすれば治る病気になった」と公言してはばからない。

統計上でもがん死は減ったといわれるが、私には医師が喧伝するほどの大きな変化は感じられない。

相変わらず、がんは日本人の死因の第一位であり、がんになる人が減っているわけでもない。

これは、景気が上向いていると政府が発表しても、庶民感覚では暮らし向きがよくなったようには思えないのと似ている。


 人生100年などといわれるようになって久しいが、運良く100歳まで生きられたとしても、皆が100まで健康でいられるわけではない。

単に患う期間が長引いただけであることも少なくない。

皆それが怖くて病院での検査を繰り返し、目新しい健康法があれば見境なく飛びつく。

しかし、どんなに健康法を並べてみても、どれだけ病院に通いつめてみても、この不安は払拭できない。

介護を受けているような高齢者でも、将来がんになったらどうしようといっておびえている。

せっかくの長寿を楽しむどころか、不安に駆られて迷走しているのである。


 ではどうしたら、彼らの不安を打ち消すことができるだろうか。

それぞれ個人の事情もあるだろう。

だがその根底には、自分の体の状態がわからないことへの不安があるのではないかと思う。


 ほとんどの人は、自分が健康か健康でないかがわからない。

体調が悪いとき、その原因が重大なものなのかそうでないのかも判断できない。

そのため、些細な症状に対して最大級の心配をしてしまう。

何も症状がなくても、ひょっとしたら何かあるかもしれないなどと考えて、始終ビクビクしているのだ。


 がんは自分で気づいたときには手遅れだという話を聞けば、さらに不安になる。

そこで病院で頻繁に検査を受け、医師から「何もありませんよ」の一言を聞くために奔走する。

そんな生活が生涯続くとしたら、果たしてこれが健康と呼べるだろうか。


 実はこの不安解消には、骨のズレによる「アシンメトリ現象」の存在を知ることが最も近道なのである。

「アシンメトリ現象」を理解していれば、何か症状があっても、それが単なる骨のズレによるものか、何らかの重大疾患なのかが区別できる。

自分だけでなく他の人の体であっても、同じように判断できようになるのだ。


 しかもその症状が骨のズレによるものだとわかれば、ズレた骨を正しい位置に戻してやるだけでよい。

わざわざ病院に行くまでもなく、家庭でもできることだ。

逆に、症状の原因が骨のズレでなければ、そこで初めて医療に関わる段階になるのである。

もちろん病院で検査したからといって、全ての症状が解決するわけではないし、原因がわからないことも多い。

だが仮に原因がわからなくても、ほとんどの症状は自然に消えていくものでもある。


 つまり、「アシンメトリ現象」という判断基準さえ手にすれば、体のことでよけいな心配をする必要がなくなる。

たとえ症状が激しくても、その原因が骨のズレだとわかれば、心理的には落ち着いていられるのである。


 そもそも病気の心配ばかりしている状態は、健康的とはいえない。

健康であるかどうかは、本人の主観に大きく依存する。

本人が幸福だと思えば、それを他人が否定できるものではないのと同じだ。

だれしも老いとともに、あちこち不調は増えるものだが、自分の体の状態を把握することで不安から開放されれば、それは健康と呼んでよいのではないか。


 現代はあまりにも健康や寿命の長さに価値を置きすぎる。

健康は大事な要素ではあるが、健康が人生の目的になったり、健康に人生を振り回されたりしてはいけない。

「立派に費やされた一生は長い」と、ダ・ヴィンチもいった。

彼は67歳でこの世を去ったが、当時としては立派なものだ。

本人にとっては、未完成の作品や実現には至らなかった多くの構想を、この世に残していく悔しさはあったろう。

だが道半ばであったとしても、彼の生涯は「立派に費やされ」、今もみごとな光彩を放っている。


 しかし、彼の画家として以外の才能については、これまで正しく評価されてきたとはいえない。

現代ですら、彼の業績を理解するにはまだ早いのかもしれない。

来たる2019年は、レオナルド・ダ・ヴィンチの生誕500周年に当たる。

私はこの機会に、医学への貢献も含めた彼の科学者としての実績が、正当に評価されることを期待しているのである。


■参考文献
★『 モナ・リザと数学 ― ダ・ヴィンチの芸術と科学
             ビューレント・アータレイ著 
★『 レオナルド・ダ・ヴィンチ 』セルジュ・ブランリ著 

 

                                                             花山 水清

(花山水清メールマガジン 「月刊ハナヤマ通信」 

 

 

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