『  ダ・ヴィンチ健康法 <睡眠> 』


 前回までの当メールマガジンでは、レオナルド・ダ・ヴィンチの手記のなかから健康に関する記述を拾って、「ダ・ヴィンチ健康法」としてまとめてお伝えしてきた。

<食><排泄>に続いて、今回は<睡眠>がテーマである。


 歴史上、偉人と呼ばれる人たちには、睡眠に関するエピソードが多い。

エジソンやナポレオンが1日たったの3、4時間しか眠らなかったというのは、有名な話だ。

そうかと思うとアインシュタインなどは、日に10時間も寝ていたらしい。

さらにダ・ヴィンチにいたっては、4時間ごとに15分間だけ眠るようにしていたという逸話も残っているから、かなり特殊だろう。

毎日8時間は横になっている私とは、えらい違いだ。


 社会一般でも、睡眠時間が短いほうが働き者だと思われている。

ナマケモノという動物も、日に20時間も眠るから「怠け者」だと思われてしまったのだろう。

総じて、寝ている時間は人生のムダだと考えられている。

ダ・ヴィンチもその手記のなかで、「食気と眠気と怠惰な羽根ぶとんこそ、この世からありとあらゆる徳を追放した」とまでいっているのである。


 だが、健康という観点で捉えると、睡眠は決してムダではない。

寝過ぎで病気になることはないが、寝不足は、肥満や高血圧、糖尿病、がん、精神疾患など、さまざまな病気の原因となることが知られている。

つまり睡眠というのは、健康を維持するうえで不可欠なプロセスであり、心身のメンテナンス・タイムだと考えるべきなのだ。

だから、睡眠時間が短いのは、決して健康的とはいえない。

しかし、2017年11月の厚生労働省の調査によると、現代人の睡眠時間はどんどん減っている。

仕事や家事の負担が増える40代の、実に半数以上が6時間未満だそうだ。

それでは遅かれ早かれ限界がくるだろう。


 その一方で、時間はあるのに眠れないという、不眠で悩む人の数も増えている。

そのため、入眠剤などの睡眠薬を常用する人も、増加傾向にあるようだ。

そういった薬には、翌朝以降も薬の作用が残る持ち越し効果の問題や、記憶障害、依存症、離脱症状などの副作用がつきものだ。

いうまでもなく、安易に薬に手を出すのは得策ではない。


 実は私も、50歳を過ぎたころから睡眠のパターンが変わった。

若いころなら朝まで8時間ぐっすりと眠れたものが、夜中に必ず一度は目が覚めるようになり、そのまま寝つけないのである。

しかし、このような睡眠パターンの変化は、だれにでも起きる一種の老化現象である。

単なる老化である以上、問題視して悩むような類のことではない。

深く眠るにも体力が必要だから、若いころのように眠れなくても、年をとればそうなるものだと受け止めるしかないのである。


 ダ・ヴィンチも、中年期以降、少なからず睡眠の質が下がっていたのだろうか。

睡眠について、「腹を仰向け、頭を下げているな。夜はふとんをよく着るよう」などという記述がある。

要するに、寝る姿勢と寝具についての心得であるが、現代でもこれらに強いこだわりをもつ人は大勢いる。

だが、姿勢や寝具を替えたからといって、眠りがそれほど改善するものかというと疑問が残る。


 私も、不眠で悩む人から相談を受けることがある。

不眠には、医学的にもさまざまな原因や対処法が存在しているようだが、骨のズレが大きく関与していることは少なくない。

骨のズレを矯正したら、その夜は今までにないぐらいぐっすり眠れたという人は、思った以上に多いのである。


 骨のズレが不眠の原因となる理由はいくつかある。

まず、骨がズレると交感神経が刺激されて、体が緊張状態になる。

体が緊張していればなかなか寝つけないうえ、眠りも浅くなるのだ。

そこで骨のズレを矯正すると、交感神経による緊張が弱まり、代わりに副交感神経が正常に働き始める。

その結果、リラックスして眠くなるし、眠りも深いものになるのである。


 さらに、骨のズレは直接、知覚神経を刺激して、痛みなどの症状を引き起こす。

その痛みのせいで、熟睡できなくなる。

寝返りのたびに痛みで目が覚めるようでは、慢性的な寝不足状態にもなる。

また、夜中に何度も尿意で起きてしまうのも、骨がズレている人によく見られる現象である。


 こういった骨のズレによる症状で不眠に陥っている人たちが、病院では更年期障害やうつ病だと診断されるケースもある。

骨のズレによる症状であれば、投薬では改善しないので注意が必要だ。


 私に解決策を訊かれたら、薬への依存をやめて、昼寝を控えることの2点にしぼってアドバイスしている。

病院では、不眠に対して気楽に睡眠導入剤などを処方するが、それらの薬を常用することで、将来的に認知症のリスクが上がることがわかっている。

それを聞いても、ほとんどの人は薬を手放そうとはしない。

将来の認知症よりも、今晩、眠れることのほうが大切なのだ。


 昼寝についても、昼にたっぷり寝ていれば、夜は目が冴えて眠れなくなるのは当然だ。

眠れないのをむりに寝ようとするから、薬に頼らざるを得なくなる。

そのようなことを繰り返しているうちに、体内時計が乱れて、いつしか昼夜逆転の生活になってしまう。

そこまでいくと、なかなか普通の生活には戻れなくなるのである。


 だが、そもそも不眠というのは、人間にとってはあり得ないことだ。

いくら眠れないと悩んでいても、そのままずっと眠らずにいることなど不可能である。

本人は眠っていないつもりでも、いつかは必ず眠ってしまうはずだ。

それなら、一時的に眠れないだけの状態を、あえて病気としてくくる必要があるのだろうか。

もし治療の対象だとしても、いきなり投薬から始めるのではなく、生活習慣の改善指導と本人の自助努力こそが、不眠の解決への第一歩であるべきではないか。

そこで参考までに、睡眠のために気をつけたいことをメモしておく。


【1】朝は必ず決まった時刻に起きる

朝の光を浴びることで、体内時計がリセットされる。

【2】よく歩き、適度に発汗させる。

日中の活動量が少ないと骨がズレやすくなるし、寝つきが悪くなる。

【3】昼寝を控える。

どうしても眠りたければ、昼寝が30分を超さないようにする。

【4】夕方以降はカフェインをとらない。

コーヒーだけでなく、お茶やドリンク剤などに含まれるカフェインの覚醒作用を軽くみてはいけない。

【5】寝る直前に食べない。

食事の直後は体温が上がるので、寝つきが悪くなる。

寝つけたとしても睡眠の質が悪くなり、骨もズレやすくなる。

【6】テレビやスマートフォンなどを寝る直前まで見続けない。

強い光は入眠の妨げになる。
  
【7】睡眠導入剤などの薬に頼らない。
   
今、飲んでいる薬をやめたいなら、必ず担当の医師に相談する。


 さて、以上の課題をクリアしても、睡眠にはさらなる問題が潜んでいる。

眠りが死を暗示しているため、死への恐怖心や忌避感が強いと、それが不眠として表面化することがあるのだ。

だが、眠りで一旦は死を迎えても、翌朝の目覚めとともに、再び必ず生が始まる。

そう固く信じることである。

眠りを遠ざけることは、この再生を遠ざけることになる。

それでは、充実した人生を送ることができなくなってしまうのだ。


 ダ・ヴィンチは、「あたかもよくすごした一日が安らかな眠りを与えるように、よく用いられた一生は安らかな死を与える」と記している。

「今日も充実した良い一日だった」という満足感とともに眠りにつく人には、充実した一生と、その向こうに安らかな死が約束されている。

これがダ・ヴィンチの信条であり、理想の生き方だったのではないか。

彼の業績を見れば、この理想は達成されたものと考えてよいだろう。

 

(花山水清メールマガジン 「月刊ハナヤマ通信」 

 

 

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