【 背骨のズレの連鎖現象 】

 
 人体の「アシンメトリ現象」とは、背骨が左にズレることによってからだの左側だけに現れるさまざまな形・感覚・質感などの左右非対称性の現象の総称である。

この現象は、今まで誰にも知られずにいた人体の未知なる領域でもある。

そして誰にも知られていないがゆえに、この現象の解明も私が考える以外に手だてはないが、現時点ではこの現象の全体像すらまだつかめてはいない。

私自身、「アシンメトリ現象」の何がわかって何がわかっていないのかの整理すらできていない状態である。


 当メールマガジンは、「アシンメトリ現象」をあらゆる角度から紹介することを目的としている。

だが見たことも聞いたこともない現象を、他人に理解してもらうのは本当に難しい。

どんなに工夫してみても、ぼんやりとしたイメージすらつかんでもらえないことも多い。

そればかりか、言葉を費やした分だけ誤解が生じる恐れもある。

とはいえ今の私にできることは、少しでも多くの人に「アシンメトリ現象」の存在を、認知してもらう努力を続けるだけなのだ。

そこで今回も、「アシンメトリ現象」の、ある不可解な側面についてご紹介したい。

 これは、モルフォセラピー(背骨のズレの矯正法)の実践者にとってはなじみのある現象ではないかと思うが、当誌で扱うのは初めてのはずだ。


 モルフォセラピーには、「錬成会」という月例の練習会がある。

そこではお互いが練習台になって一日かけてみっちりと背骨のズレの矯正を練習する。

しかし続けざまに練習台になっていると、それまでズレていなかった背骨が、突然ズレ始めて痛みだすことがあるのだ。

しかもそのズレを矯正しても、飛び火したようにまた違う場所がズレる。

何度矯正しても次から次へとズレていくので、モグラたたき状態になる。

まるで海の中で積み木でもしているかのように、非常に背骨の収まりが悪くなってしまうのだ。
 
 私は、この連鎖現象を避けるため、実際に患者を矯正するときにはあまりしつこく攻めないことを推奨していた。

ところが先月、「錬成会」の責任者に改めて訊いてみると、近頃はズレの連鎖現象はあまり見られなくなったというのである。

以前の手技は、ズレた背骨を指先でピンポイントで捉えてサッと一瞬で矯正していた。

患部に触れる面積や時間が少なければ少ないほど、患者にとって負担が少ないと判断していたからである。

しかしモルフォセラピーになってからは、DVDを見ていただいてもおわかりの通り、指先で背骨のズレを捉えるのと同時に、手のひら全体で患部周辺を大きくホールドしながら、ゆっくりと矯正をおこなっている。

この手技の変化が、ズレの連鎖現象の発生の有無に関係しているのだろうか。

ズレというのは、椎骨が多裂筋に引っ張られることで発生すると考えれば、この多裂筋の構造に、手技の違いが影響しているのかもしれない。

 

だが正確なことはわからない。

 
 そういえばこの間、珍しいタイプのズレの連鎖現象に遭遇した。

私は2年程前から、あるパーキンソン病の患者を診ている。

パーキンソン病そのものは脳の疾患だが、その症状は背骨のズレと密接に関係がある。

パーキンソン病患者の背骨のズレを矯正すると、パーキンソン病に特有のふるえ(振戦)の症状が消えるのだ。

ただしズレの矯正にはかなりの根気が必要となる。

 

しかしここしばらく彼の症状が大分落ち着いていたので、その日はさらに踏み込んで攻めてみた。すると突然、ズレの連鎖現象が始まってしまったのだ。


 実はパーキンソン病患者の背骨のズレというのは、がん患者のズレと同じように、痛みを出さない沈黙のズレである。


それまでは、沈黙タイプのズレには連鎖現象が起きたことはなかったので、安心していてどこかに油断があったのかもしれない。

こうなると、戻しても戻しても背骨がズレていき、振戦の症状まで復活してしまった。これには私も一瞬ひるんだが、気を取り直して根気よくズレを矯正していった。

その結果、踏み込んで攻めてみる前よりも、さらに振戦症状は出にくくなってくれた。

冷や汗の出るような体験ではあったが、やはり背骨のズレを矯正することは、確かにそれぞれの病態を改善へと向かわせる。

しかし今回の例のように、ズレの連鎖現象が出現すると、病態が逆戻りしたように見えたり、寝た子を起こしたように見えることもあるので、緊張を強いられる。

だからといって施術に消極的になりすぎても、目覚ましい結果は出せない。このあたりの見極めが非常に難しいのである。

 


 この背骨のズレが飛び火したように連鎖的に発生するのはなぜだろうか。

私は、背骨のズレを矯正したことで骨格筋の緊張がゆるむからだと考えてきた。

例えば、背骨がズレるとその周辺の筋肉が緊張する。

この緊張した筋肉がコルセットの役割を果たすことで、ズレ幅は小さくなる。

このこと自体は、大きなズレによる衝撃を回避するための、自己防御的な作用だろう。

ところが、その大きなズレを矯正して筋肉の緊張がゆるむと、今度は周りにあった小さなズレのズレ幅が大きくなるのかもしれない。

それが、突然ズレが飛び火したように見えた原因ではにないのか。
 
 またもう一つの可能性として、全く痛みを出していなかった沈黙のズレに、過度な刺激を加えたことによって発痛が促されたとも考えられる。

だが沈黙タイプの背骨のズレは、自覚症状としての痛みがないのが特徴だ。

先述のパーキンソン病患者にしても、ズレの連鎖が起きても痛みは全くなかった。

すると、この2つ目の考え方は消去すべきか。

 さらにもう一つ挙げるなら、ズレの連鎖現象の発生には手技は全く関係なかった可能性もある。

そもそも背骨のズレの原因の一つはMSG(グルタミン酸ナトリウム)などの化学物質である。

それならば、ズレの連鎖現象の原因としてもっとも有力なのは手技による過度の刺激ではなく、そのときたまたま原因となる化学物質を大量に摂取していたせいで、背骨がズレやすい状態にあったからではないか。

実際「錬成会」のときには、背骨がズレていないと練習台になれないため、当日はあえてズレやすくなるような食事しかとらない献身的な人もいた。

それほどMSGの影響はダイレクトなのである。

 また他の要素として、矯正を受ける前からズレの連鎖現象と同じような症状を出している患者もいないわけではない。

確かにこのタイプのズレは、指先だけのピンポイントの手技よりも、手のひら全体でホールドする手技のほうが収まりやすいようだ。

以前はこの2つの手技を使い分けていたが、現在のモルフォセラピーでは手のひらでホールドするのが基本の手技となっている。

 さてこのように色々と考察してみても、ズレの連鎖現象の原因はまだ特定できていない。

これでは未消化で申し訳ないが、こういった現象が存在することだけは書き残しておきたかったのだ。



 最近話題になっている線維筋痛症(せんいきんつうしょう)にしても、私から見れば、「アシンメトリ現象」による症状そのものであり、特にズレの連鎖現象による病態を指していると思われる。
 
もちろん、ズレの連鎖現象の原因がどんなに複雑なものであろうと、また症状がいかに多岐にわたろうと、それぞれの症状の原因は単純な背骨のズレである。

その背骨のズレさえ、ねばり強く矯正していけば解決するのだから、悲観することはない。


 モルフォセラピーの実践者は、矯正を続けていくうちにいつかはこの連鎖現象に出くわすはずだ。

あっちでもこっちでも火の手が上がれば、枯れ野で野火に取り囲まれたような気分になるかもしれない。

逃げ出したくなったり、何とかごまかせないかと思うこともあるだろう。

だがそこで勇気を出して、ゆっくりと目の前の火をひとつひとつ確実に消していってもらいたい。

医学が未知の領域に分け入って、背骨のズレの存在を認知してくれるようになるまでは、われわれ自身の手で努力を重ねるしかないのである。
 

                            (花山水清)
 

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