先日、北海道の海辺でキテン(ホンドテン)を見かけた。
岩場でチョロチョロと愛らしい動きを見せたと思ったら、突然、海に潜ったのである。
テンが海に潜る?
こんなシーンを見た人など、めったにいないのではないだろうか。
海水でずぶ濡れになって岩に上がり、プルプルと体を振ってしぶきを飛ばす姿は、何ともいえずかわいかった。
そういえばずっと前にも、もっと衝撃的な場面に出会ったことがある。
あれは今から30年以上昔のこと、北海道の大雪山系に岩内仙侠までドライブした。
そこから山道を車でさらに奥へ進むと、森のなかに名も知らぬ小さな沼があった。
人が立ち入ることなどほとんどない、いつクマが出てきてもおかしくないような、そんなところだった。
私がその沼に見とれていると、目の前でとつぜん1メートル以上ある動物が泳ぎ出し、そして水のなかに潜っていったのである。
ほんの一瞬のできごとだったが、私の頭のなかには「カワウソ!」という文字が点滅していた。
私はある博物館で、絶滅したといわれるニホンカワウソの剥製を見たことがあった。
あのとき沼で遭遇したのは、そのニホンカワウソと同じものだったのだ。
もちろん、北海道でもニホンカワウソはとうに絶滅している。
見まちがうとしたら、テンか野生化したミンクしかない。
だが、それでは大きさが違いすぎるだろう。
今でこそ、ペットとして輸入されたカワウソを飼うことがブームらしいが、30年も前にペットのカワウソなどいなかった。
だから、ペットが逃げたものでもない。
やはりあれはオオウソ・・・いやオオカワウソだったことはまちがいない。
そして今でも、美しい沼の風景とともに、あの映像は私の脳裏に焼き付いているのである。