Vol.362 12/7/2016 

寝違えとめまいと脳梗塞との関連性

 先月、めまいの専門医である二木隆先生から、近著の『 臨床最前線で診
るめまい 』(医学と看護社)という専門書をいただいた。
二木先生は、体調のせいもあって、最近は臨床からは少し離れておられるの
だが、その間に、今までの研究の集大成として、この本をまとめ上げられた
ようだ。

 本書には、めまいに関する既存の書籍と違って、たいへん興味深い論文が
数多く盛り込まれていた。
特に、頚部痛とめまいとの関わりについて、深く掘り下げて研究してあった。

 

 二木先生の専門は、耳鼻科である。
通常、耳鼻科におけるめまいの研究であれば、それが耳鼻科の範囲から外れ
ることはない。
それは、他科の医師であっても同様で、自分の専門領域を出て研究すること
はあまりないのである。
そのため、その内容は必然的に、重箱の隅をつついたようなものになりがち
だ。
ところが二木先生は、めまいの原因を、頚椎ヘルニア、変形性頚椎症、ムチ
打ち損傷など、専門分野の外にまで広げて追究しておられる。
これらの内容は、めまいに対する私の従来の考察を、より確信へと導いてく
れるものだった。

 

 実は、めまいも、頚椎ヘルニア・変形性頚椎症・ムチ打ち損傷による頚部
痛も、ともに頭蓋・頚椎のズレが原因である。
このことから考えて、めまいと頚部痛とについては、私も以前からその関連
性を疑っていたのだ。

 先日も、朝起きたら首が痛くて、食事もできないという高齢女性がいた。
この方は高齢者施設に入居中で、施設の職員の方が整形外科に連れていこう
としていた。
しかし本人は、病院に行くよりも、先に私に診てもらいたいといったようだ。
そこで、職員の方から私のところに連絡が来たのである。
この方のことは、今までにも何度も診ていたので、電話で症状を聞いただけ
でも、重大疾患でないことは十分に予測ができた。
診てみると、案の定、彼女の首の痛みは、単なる寝違えのようだ。
どうやら、前日に首に負荷をかけるような体操を、熱心にやりすぎたのが原
因らしい。

 

 寝違えとは、正式には、頚椎捻挫(けいついねんざ)といい、筋肉痛の一
種だと考えられている。
しかし実際には、寝違えは、頭蓋や頚椎の複合的なズレが原因だ。
だから、そのズレさえ矯正すれば、寝違えによる痛みも解消するのである。

 だが、彼女の場合は、ズレ幅がかなり大きいうえ、首の痛みと同時に、軽
いめまいの症状も出ていた。
そのような状態で、いきなりズレを戻すのは危険だ。
大きくズレている頭蓋や頚椎を、一気に元の位置まで戻しきってしまうと、
脳への血流が急激に変化する。
その結果、一時的には、めまいの症状を亢進させる危険性があるのだ。
そして、最悪の場合、その血流の変化が脳梗塞の引き金にもなりかねないの
で、高齢者の場合は、特に注意が必要である。
しかし、今の程度の症状なら、完全に矯正しきらなくても、数日もすれば気
にならないレベルになるはずだ。
ここであえて、危険をおかす必要はない。
そう判断して、今回は少しだけの矯正に留めた。
そのことを、本人にも施設の職員の方にも説明しておいた。
あとで聞いた話では、やはり、数日で症状は消えたようだ。
 
 さて、今回の彼女の場合は、首の痛み(頚部痛)が主訴であり、めまいは
付随的な症状であった。
逆に、めまいが主訴で、同時に頚部痛を訴える人もいる。
どちらにしても、頭蓋と頚椎のズレが原因である。
また、頭蓋・頚椎がズレると、首の痛みとともに、首の可動も悪くなる。
これが寝違えの症状となる。

 

 もう少し詳しく見てみれば、頭蓋・頚椎のズレは、首の左右にある頸動脈
や椎骨動脈に、機械的なダメージを与えていることがわかる。
椎骨動脈に対する刺激は、その先の脳底動脈にも影響を及ぼす。
また、頸動脈や椎骨動脈は、脳へ血液を運ぶ最も重要な血管であるから、こ
れらの血管に機械的な力が加わると、脳への血流が阻害され、脳は虚血状態
に陥る。
これはいわば、首を締められたのと同じ状態だ。
それで、めまいが出現するのである。

 このような病態を、医学的には一過性脳虚血発作ととらえることもある。
一過性脳虚血発作の原因は、検査してもわからないほど、微小な血栓による
ものだと考えられている。
そのため、一過性脳虚血発作による高齢者のめまいは、脳梗塞の前触れとも
いわれているのだ。
すると、めまいが頭蓋・頚椎のズレによるものであれば、同じズレによって
起こる寝違えの首の痛みも、脳梗塞の前触れだと考えるべきではないか。

 そもそも脳梗塞は、高血圧や糖尿病、高脂血症などといった、生活習慣病
による動脈硬化が最大の原因だとされている。
しかし私は、動脈硬化そのものも、骨のズレによる機械的な刺激が根本原因
であり、生活習慣病は二次的な要因にすぎないと考えている。
要するに、寝違えなどを含めた頚部痛も、めまいも脳梗塞も、頭蓋・頚椎の
ズレによる一連の症状なのである。

 しかも、これらの症状は、その発症時刻が共通している点も見逃せない。
まず、寝違えといえば、たいてい、朝の寝起きに起こるものだ。
めまいも、朝、寝床から起き上がろうとしたら天井が回っていた、という例
が多い。
そして、脳梗塞の発症も、やはり夜間から早朝にかけての時間帯に集中して
いるようだ。
これらは、たまたま発症時刻が似ているのではない。
全て、頭蓋・頚椎のズレという、原因そのものが共通しているからなのだ。

 その根拠となっているのが、骨のズレと自律神経の働きとの関係である。
眠りから覚めるとき、自律神経は、副交感神経から交感神経に切り替わるこ
とが知られている。
また、椎骨動脈の血流は、交感神経のみによって調整されている。
そして、骨のズレという現象は、交感神経の機能を亢進させる作用をもつの
である。
これらの事実を重ね合わせると、寝違え(頚部痛)、めまい、脳梗塞の発症
時刻が共通している理由は、骨のズレによって引き起こされた、交感神経の
機能亢進が、深く関わっているからだとわかるのだ。

 この仕組みについては、いずれしっかりと考察したいのだが、医学的にも
早急に検証されるべきだろう。
しかし現在は、医学界でも一般でも、頚部痛とめまいと脳梗塞は、それぞれ
が別個の病態としか考えられていない。
そのため、それぞれの症状では、受診する科さえ違うのが常識だ。
だがそこに、骨のズレという要因を加味すれば、既存の常識などあっという
間にくつがえる。
医学の世界では、従来の医学常識を疑うことは好まれないようだが、本来、
常識をくつがえす視点なくして、医学の進歩など望めまい。

 頚部痛にしても、それが脳梗塞の初期段階であったなら、早いうちにそう
と気づけるかどうかは重要だ。
脳梗塞というのは、発症から数時間で治療が開始できるかどうかで、明暗が
大きく分かれる。
その後の人生は、天と地ほども違うものになるのだ。
確かに、高齢になるとだれでもあちこち痛いものではあるが、首の場合だけ
は、「たかが寝違え」と侮ることなかれ。
これだけは、ご記憶いただきたいところなのである。
                             (花山 水清)

 『 臨床最前線で診るめまい 』二木隆 著 http://tinyurl.com/jjc9owk

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