メールマガジン月刊ハナヤマ通信  Vol.358 8/3/2016 

 

究極の「リセットボタン」を探して

■ボツ原稿
 先日、引き出しを片づけていたら、数年前にボツにした、メールマガジンの原稿が出てきた。
当誌は私の研究発表の場でもあるから、日頃から考えていることをまとめる機会でもある。
そのため、書き始めてみたら、まとまりのつかないものから、時期尚早のも
のまであって、発表できる内容になるまでには、何倍もの原稿を、ほごにし
ているのだ。

 今回見つけたボツ原稿は、「アシンメトリ現象」の解消につながる、究極
の「リセットボタン」について書いたものだった。
「アシンメトリ現象」とは、規則性をもった、左右非対称な体の状態のこと
である。
脊椎(せきつい)動物にとって、体の形に非対称性が現れることは、生命体
としては、致命的な形状であることを意味する。
そのことに気づいてしまった以上、何とかして「アシンメトリ現象」発生の
根本原因を突き止め、その解消方法を探し出す必要があったのだ。

■究極の「リセットボタン」
 私は以前、この「アシンメトリ現象」を、腰痛などに代表される「骨のズ
レ」のグループと、がんなどに代表される「形態異常」の疾患グループとの、
2つに分けて考えていた。
そして、それぞれに対する施術方法も、全く違うものだった。
施術時間にしても、片や「骨のズレ」の矯正が、ほんの数分で終わるのに対
し、「形態異常」への施術となると、数時間に及ぶこともあった。
さらに、命に関わるほどの疾患となると、施術する側にもされる側にも、負
担が大きかった。
そのため、施術方法もそこに費やす時間も、より簡略化される必要があった
のだ。
そこで、長年、改良に改良を重ね、理論上も、「骨のズレ」と「形態異常」
とが、「アシンメトリ現象」として一つにまとめられたことで、施術内容は
飛躍的に向上した。
それが、現在の「モルフォセラピー」である。
しかし、さらにその効果を確実にしていけば、最終的には、それが究極の
「リセットボタン」となるはずだ。
つまり、究極の「リセットボタン」とは、どこか1ケ所のズレさえ矯正すれ
ば、「アシンメトリ現象」に関連する全ての疾患に対して、劇的な効果を現
すことが、期待されるポイントのことなのである。

■26個の積み木
 では、実際のところ、人体にはどれだけの、「骨のズレ」が存在するのだ
ろう。
人間の体の中心となる脊椎(せきつい)は、頚椎(けいつい)7個、胸椎
12個、腰椎5個で構成されている。
さらに、上下に頭蓋(とうがい)と仙骨を加えて、合計26個の積み木を、
縦に積み上げたものが、平均的な体の中心軸だと考えてみよう。
それら26個の積み木のそれぞれが、左右にズレる組み合わせは、何通りに
なるだろうか。
ただし、「アシンメトリ現象」の法則では、頭蓋は右のみ、第2頚椎は左の
み、第1胸椎から下の18個も左のみにしかズレないので、計算は少し複雑
になる。
計算上は、764,411,904通りの、ズレの組み合わせが存在するこ
とになるようだが、途方もない数であることは確かだ。
その膨大な数の、ズレの組み合わせに応じて、それに伴う症状も多岐にわた
るのである。

■頭蓋のズレではなかった
 さて、そのうち1ケ所のみのズレの矯正で、全てが解決するとしたら、そ
れが究極の「リセットボタン」となる。
1つだけとなると、その候補は32ケ所に絞られる。
そこで、以前考えた究極の「リセットボタン」は、頭蓋のズレであった。
その論拠は、頭蓋がズレると、脊髄(せきずい)及び、脊髄神経の中枢と末
梢の、両方の神経に一度に影響を与えるからである。
さらに、頭蓋のズレは、位置的には唯一、延髄(えんずい)に対して作用を
及ぼす。
延髄は、呼吸、循環、体温調節に関係する自律神経中枢や、嚥下(えんげ)、
嘔吐(おうと)、咳などの反射中枢でもある。
また、脳神経12対のうち、第5から第12までの神経は、延髄から起こり、
錐体路(すいたいろ)を通る。
錐体路は、随意運動の伝導路であり、ちょうど延髄のところで交叉(こうさ)
している。
そのため、当初は、「アシンメトリ現象」の特徴である、左右差の規則性は、
頭蓋のズレが原因ではないかと考えていたのである。
その他にも、頭蓋がズレると、大後頭孔(だいこうとうこう)のなかを通る
前脊髄動脈、後脊髄動脈ならびに椎骨動脈などの、重要な動脈が圧迫される。
これらの動脈の圧迫が、脳卒中の原因となっていることも、十分に考えられ
る。
そして何よりも、頭蓋が右に倒れ込むことで、何らかの力学的作用が働いて、
第2頚椎と第1胸椎から下が、左のみにズレるのではないかと考えたのだ。
ところが、その肝心の頭蓋のズレが、「アシンメトリ現象」をもつ人全てに
当てはまるわけではないのである。
これは、論理としては致命的な欠陥なので、やむなく、頭蓋のズレは「リ
セットボタン」の候補から除外され、その原稿もお蔵入りとなったのだった。

■有力候補の発見
 では、究極の「リセットボタン」は、一体どこにあるのだろうか。
そもそも、そのようなスイッチが、存在するのかどうかすらわからないが、
最近になって、ひょっとしたらと思える、有力な候補が見つかった。
それが、第5腰椎と仙骨のズレなのである。
一つに絞り込みたいところだが、第5腰椎と仙骨は、必ずセットでズレてい
るので、矯正の対象としては、分けては扱えない。
また、私のいうズレとは、上に載ったほうの積み木が、左右にズレるという
意味だが、この左右というのも、あくまでも平面的な表現に過ぎない。
実際の骨は立体構造であるから、ズレとは、骨同士が、重力に対してらせん
階段状に、ねじれた位置関係にあることを意味している。
そして、仙骨のズレといえば、仙骨の上部が、左に傾いている状態のことで
ある。

■ポイントは仙髄か
 実は、この仙骨の傾きは、仙髄に対して重大な作用を及ぼす。
つまり、仙髄の交感神経と副交感神経の、両神経の支配域に、同時に作用を
及ぼすのである。

 通常、骨のズレを矯正できる範囲内で、交感神経と副交感神経の支配域が
重なるのは、延髄か仙髄しかない。
すなわち、頭蓋か仙骨のズレである。
そのうち、「アシンメトリ現象」をもつ人全てに共通して見られるのは、第
5腰椎と仙骨のズレだけである。
また、この部分がズレている人は、左腰部の筋肉が盛り上がっている。
この盛り上がりは、「アシンメトリ現象」では、極めてよく見られる特徴で
もある。
そして、これらの全ての要素が、究極の「リセットボタン」を特定する上で、
絶対不可欠な条件なのだ。

 さらに、私の経験でも、第5腰椎と仙骨のズレは、完全に矯正しきるのが
難しい反面、矯正が成功すると、他の部位のズレがゆるんで戻しやすくなり、
「アシンメトリ現象」そのものも、非常に解消しやすくなることがわかって
いる。
もしかしたら、自律神経の元となる視床下部まで、仙髄が支配しているので
はないかと思えるほど、その矯正の効果は大きいのだ。

■「アシンメトリ現象」と錐体外路
 さて、当初、「リセットボタン」として想定した頭蓋のズレにおいては、
ズレによる錐体路の障害で、「アシンメトリ現象」が起きることはなかった。
しかし、錐体路の補助的役割を果たしている伝導路には、錐体外路がある。
一般的にも、錐体外路が障害されると、筋の緊張や不随意運動が起こること
が知られている。
そして、この錐体外路などの障害で代表的な筋緊張の病気に、パーキンソン
病がある。
パーキンソン病患者にも「アシンメトリ現象」は見られるし、頭蓋のズレが
錐体外路にもっとも近いことからも、イメージとしては、このズレがパーキ
ンソン病の、筋の緊張や不随意運動に、いちばん影響していそうな気がした。
ところが実際には、頭蓋のズレを矯正してみても、全く効果がない。
そこで、試しに第5腰椎と仙骨のズレを、集中的に矯正してみると、一時的
にではあっても、筋の緊張や不随意運動に、変化が見られたのである。
すると、「アシンメトリ現象」とは、錐体路ではなく、錐体外路の障害であ
る可能性が出てくる。
ただ、それがどうして、仙髄と関連するのか。
私のなかでは、すでに理由づけはできているが、今の段階では、それを既存
の医学常識に則って、説明することができないのだ。
そこに、もどかしさがある。
もちろん、今後もさらに検証を重ねていかねばならないが、もし、このなぞ
が完全に解明できれば、「アシンメトリ現象」に伴う、さまざまな疾患に対
してのアプローチは、極端にショートカットできる。
まさに、夢のような施術が可能になるのだ。
                             (花山 水清)

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