Vol.339 1/7/2015 

家族の健康

 今年83歳になる母が、去年6月に脳梗塞(のうこうそく)を発症した。
そのとき母は、同じマンションの知人の家でおしゃべりしている最中であっ
た。
母の顔色がバッと赤くなったのを見て、そこの家のご主人が異変を察知し、
近所の方と連携して救急車の手配をしてくださった。
そのおかげで、大事には至らなかったのである。

 脳卒中は、いかに早く治療がスタートできるかが肝心だ。
放置すれば死に至ることも多いし、処置までに時間がかかるほど、後遺症の
度合いが強まる。
母の場合は、脳梗塞を体験した近所の方が正しい判断をしてくださったから
助かったわけだが、その時点で、部屋に帰って休むようになどといわれてい
たら、どうなっていたかわからない。
実際、同室に入院していた50代の女性は、脳梗塞の発症を単なる疲れだと
判断した。
そして、一晩寝ている間に、症状がかなり進行してしまったため、半身麻痺
でかなりきつい後遺症が出ていた。
やはり、脳卒中に対する知識の有無が、運命の分かれ道だったことになる。

 後日、母に聞いてみると、救急車に乗せられて入院するまでの記憶はない
が、おしゃべりしている最中に、頭のなかでカラカラと何かが落ちるような
音がしたという。
本当に何かが落ちたわけではないだろうから、発症時の脳内の急激な変化が
聴覚として感知されて、そういう音が聞こえた(ような気がした)のだろう。
それはそれで興味深い。
 
 母は脳梗塞を発症後、再発防止のため、抗凝血剤を常時服用することに
なった。
薬が効き過ぎると危険なので、薬の効きを検査するため、定期的に脳外科を
受診する。
しかし、病院というところは、まめに通えば通うほど、もらう薬の種類が増
えていく。
高齢者にとっては、何種類もの薬を管理するのは難しいことである。
特に、抗凝血剤の場合は、飲み忘れると脳梗塞の再発の危険があるばかりで
なく、飲んだことを忘れて再度飲んでしまうと、今度は脳出血の恐れもある
から厄介だ。
他の薬との相性が悪い場合も多いので、服薬にはさらに慎重になる必要があ
る。
にも関わらず、大多数の医師は、自分が処方した薬以外に、患者が他科でど
のような薬を処方されているかなど気にしていない。
ひどい場合になると、すでに脳外科で抗凝血剤を処方されているのに、主治
医に確認もしないでダブルで処方する他科の医師もいた。
 
 私はこれまでにも、何回か母の通院に付き添ったことがある。
地元の商店街はさびれ切っているのに、いつも病院のなかだけは、どこにこ
んなに人がいるのだと思うほど、患者でごった返している。
受付をしてから、検査、診察、会計を済ませ、薬をもらって帰るまで、だい
たいいつも3時間以上かかる。
あっちへ行け、こっちへ来いといわれて、あちこち回っての3時間なのだか
ら、健康体でなければ、とてもこなせない作業である。
病院好きの母は、一人でも週に1回以上は、あちこちの病院に行っていたよ
うだから、それはそれでいい運動になったことだろう。

 そんな母が、あるとき腰が痛いといいだした。
以前から、頭だの胸だの腰だの膝だのと、しゅっちゅうあちこち痛みを訴え
ていた。
冷たいようだが、私は高齢者の体の不調には、あまり真剣に耳を貸さない。
だれだって年をとれば、体のどこかに一つや二つ調子が悪いところがあるの
は当たり前だからである。
 
 もちろん、そういった体の不調をただ我慢しろといっているのではない。
そういう不調は、だいたいが骨のズレが原因だから、ズレを戻せばいいだけ
なのである。
私の母の腰痛にしても、骨のズレが原因であったから、その場で、ズレを戻
しておさまった。
しかしその2日後、今度はお腹が痛いといい始めた。
いつも通り、病院で検査を受けたそうなそぶりを示すが、表情を見れば、ど
の程度の痛みかがよくわかる。
脂汗をかいて、のたうち回るほどの痛みなら、胆石や膵炎(すいえん)、潰
瘍(かいよう)などの内臓疾患が想定されるが、母の場合は、それほどの痛
みではなさそうだ。
常に痛いわけではなく、体をちょっと動かしたときに痛みがピッと出るよう
だから、腰痛同様、単に腰椎のズレが原因だろう。
そこで、背中に回って、腰椎を調べてみる。
やはり、明らかに痛みに呼応した位置の腰椎がズレているので、そのズレの
部分に指を当てると、「イタッ」と叫んで、痛みがお腹に響くと訴える。
これで、腰椎のズレと腹部の痛みの因果関係がはっきりした。
腰椎のズレが、腰痛だけでなく、腹痛も引き起こしていたわけである。
あとは、ズレを戻せば解決だ。
ズレが戻った途端、母は何事もなかったかのように、元気におやつを食べ始
めた。

 いたって簡単なやりとりではあるが、「ズレの法則」を知らなければ、こ
うはいかないだろう。
腰が痛いといえば、整形外科を受診し、お腹が痛いといえば、消化器科を受
診することになる。
消化器科では、下手をすれば内視鏡検査をされてしまう。
内視鏡で検査をすれば、消化管を傷つけられるリスクが生じる。
そうなれば、抗凝血剤を服用しているため、出血が止まらず、下手をすると
生死をさまようことにもなりかねない。

 また、こういった痛みは、どんなに検査をしても特別な異常があるわけで
はないから、適当に消炎鎮痛剤を処方される。
ところが、ほとんどの消炎鎮痛剤はワーファリンなどの抗凝血剤と併用する
と、脳出血や消化管出血、脳塞栓などのリスクがあるのだ。
そのため、そこらで売っている鎮痛剤を買ってきて、気楽に痛みを止めるわ
けにはいかない。
「我慢して寝る」以外にすべがないのだ。

 そもそも、脳外科を定期的に受診するだけでも大変なのに、さらに2科を
受診するとなると、とんでもない作業である。
家族がつきそって受診するとなれば、勤め人なら会社を休むことになる。
しかも、受診したからといって、主訴たる痛みが消えないとなると、本人も
家族もなおさらつらい。
単に骨のズレを戻せばよいだけのことが、とんだ大ごとになってしまう。
それを避けるためにも、ぜひとも一般の家庭に「モルフォセラピー」を普及
させたいものである。

 家族の手で、ごく日常的な症状を取り去ることによって、わざわざ病院に
行く必要がなくなる。
そうなれば、高齢者が病院に通いつめる必要もない。
その代わり、地元の商店街を歩きまわるようになれば、地域経済の活性化に
も貢献できるはずだ。
もちろん、高齢者に限った話ではなく、家族の健康は何よりの喜びだ。
その喜びに、モルフォセラピーの理論や技術が少しでも役に立てれば、と
願ってやまない。                    (花山水清)

 後の号 ←                        → 前の号

メールマガジンバックナンバー目次

サイトマップ
(C)Hanayamasuisei.co.ltd. All Rights reserved.