メールマガジン「月刊ハナヤマ通信」407号 2020/09
「家の作りやうは、夏をむねとすべし」
これは吉田兼好の言葉である。
つまり、家は夏の住みやすさを優先して作るのがよいという意味だ。
古来、日本人は冬の寒さよりも夏の暑さのほうが耐え難いと感じていた。
特に日本の夏は気温だけでなく湿度まで高い。
そのため着る物や履き物をはじめとして調度品から家の造りに至るまで、生活全般が風通しよくできている。
ところが近年の日本ときたら、熱帯雨林だったかと思うほど高温多湿である。
それならさぞかし冬も温かいのかというとそうではない。
日本の家は夏仕様になっているせいで、万事に冬の備えがおろそかになっている。
一昔前までは、こたつと火鉢程度でしのいでいた。
それでがまんできたのだから、寒さなど大した問題ではないのだろうか。
しかし体にとって酷なのは、実は夏の暑さよりも冬の寒さなのである。
「がまんは美徳だ」という日本の風潮は、室温にだけは適用されるべきではなかったようだ。
この認識が医療者から広まった影響で、近ごろはヒートショックという言葉も話題になることが増えた。
ヒートショックとは、急激な温度変化によって体にダメージを受けることをいう。
では急激な温度変化とはどういう状況なのか。
冬場の外出時だろうか。
そう考えるのがふつうだが、実際に温度変化が激しいのは室内だ。
要するに、家が寒すぎて死に至るのがヒートショックなのである。
特に冬場の入浴時がもっとも危険だ。
暖かい居間から寒い風呂場へ移動すると、体から熱を奪われまいとして血管が縮む。
すると血圧が急上昇する。
そこで慌てて熱いお湯につかると、今度は急激に血管が広がって血圧が急低下する。
このようにごく短時間で血圧が急変動してしまうのだ。
また温かい寝室から冷えきったトイレへの移動でも似たようなことが起こる。
これらの血圧の急変動が心臓に負担をかけて、心筋梗塞や脳卒中につながる。
これがヒートショックの正体だ。
このヒートショックによる死者が、日本では年間1万9千人~12万人にものぼるという。
いや待て、熱中症でも大勢が亡くなっているはずではなかったか。
そう思って調べてみたら、熱中症の死者数は年間1500人ほどだった。
これでは文字通り桁違いである。
それならなおのこと、ヒートショックには早急に対策が必要だろう。
だがわれわれをとりまく問題はヒートショックだけではない。
脳卒中や心筋梗塞の発症には、背骨のズレも大きく関与しているのである。
たとえば首の骨がズレると、脳に血液を送る頸動脈や椎骨動脈が直接圧迫される。
すると血管がもろくなったり血栓ができやすくなったりするから、脳卒中が起こりやすい。
また胸椎がズレると、心臓に血液を送る冠動脈に影響が出る。
その結果、心筋梗塞や心房細動が誘発される。
このような状態で、さらに急激な温度変化という悪条件が加われば、ますます発症のリスクが増すのだ。
首の骨(頚椎)や胸椎のズレについては、以前にも予防法を書いた。
背骨のズレで気をつけるべきことは、頚椎でも胸椎・腰椎でも共通しているので、下記を参考にしていただきたい。
もちろんヒートショックそのものの予防には、できるだけ家のなかの温度差をなくすしかない。
脱衣室は25度以上、湯温は41度以下をめざすことが肝心らしい。
脱衣室の温度を2度上げるだけでも、介護期間が4年減るというデータまであるそうだ。
それならば今年はぜひとも、冬が来るまでに対策をしておきたいものである。
(花山 水清)