メールマガジン「月刊ハナヤマ通信」406号 2020/08
朝、目が覚めたらいきなり首が回らない。
首を回そうとすると痛みが走る。
こんな経験はだれにでもあるだろう。
これはいわゆる寝違えという症状である。
寝違えてしまうとしばらくは不自由だが、いつしか自然に元に戻るものだ。
ケガでも病気でもないと知られているから、病院にかけこむ人もいない。
ところがこの症状には「急性項部硬直」(きゅうせいこうぶこうちょく)という立派な病名がついている。
ブロック注射で軽快することもあるようだが、症状の原因は医学的にはわかっていないのだ。
しかし医学上は原因がわからない症状や、精神的ストレスが原因だと考えられている症状は、背骨のズレが原因であることが多い。
もちろん寝違えの場合も、頚椎(けいつい・首の骨)のズレが原因なのである。
そのズレた骨を正しい位置に戻せばよいだけなので、ブロック注射など必要ない。
実は寝違えには、右に回らない場合と左に回らない場合の2つのパターンがある。
どちらかというと左に回らないことが多いようで、車の運転中に後ろを見ようとしたら、首が左に回らなくて焦ったという話もよく聞く。
それでは頚椎がズレると、なぜ首が回らなくなるのだろうか。
首を左右に回すために重要な役割を果たしているのは、胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん)だ。
胸鎖乳突筋とは首の前面に左右一対ある筋肉で、顔を横に向けると浮き出てくる、あの首の筋(すじ)のことである。
この筋肉が働くことで、首を曲げたり顔を反対側に回旋させたりできる。
つまり左の胸鎖乳突筋が働くと顔が右に向き、右が働くと顔は左に向くのである。
この胸鎖乳突筋はその名の通り、胸骨と鎖骨を起始として乳様突起(頭蓋下部)に停止する筋肉だ。
要するに首と頭の付け根とをつないでいるので、頚椎が定位置からズレると胸鎖乳突筋が引きつった状態になってしまう。
その結果、首が回らなくなる。
また、寝違えたときに首を回して痛みが出るのも、頚椎のズレが原因だ。
ズレさえ解消すれば寝違えは改善するのだから、いたって単純なメカニズムである。
ところがこれが「アシンメトリ現象」の場合は、話が少々複雑になる。
「アシンメトリ現象」が現れると、常に左の胸鎖乳突筋が緊張した状態が続く。
そうなると寝違えほどでなくても、わずかに首が左に回しづらくなる。
このとき鏡で自分の首を真正面から見てみると、左の胸鎖乳突筋が右よりもビーンと張っているのがわかる。
それと同時に、左の鎖骨の付け根がポコッと盛り上がっているのも特徴だ。
また首が回しにくいだけでなく、左の眼球が動かしにくいと感じる人もいる。
他にも、舌を左へ動かそうとすると抵抗感がある人もいるようだ。
このように「アシンメトリ現象」によって胸鎖乳突筋に緊張が見られる場合、同じ神経支配である僧帽筋も緊張していることが多い。
すると左肩が盛り上がって引き上げられたような状態になるので、首だけでなく上体も左に回しにくくなる。
こういった体の動きの左右差は、アスリートなら意識している人もいるだろう。
別にアスリートでなくても、ラジオ体操などで体を動かすときには、左右の動きの違いをチェックしてみるとよい。
すると「アシンメトリ現象」の存在が、より身近な問題として理解していただけるはずである。
(花山 水清)
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