メールマガジン「月刊ハナヤマ通信」405号 2020/07
鼻がつまったとき、頚椎(けいつい)のズレを戻せば鼻が通るようになる。
これはモルフォセラピーでは、ごく日常的な当たり前の話である。
それではなぜ、頚椎のズレを戻しただけで鼻が通るのだろうか。
そんな素朴な疑問に答えるのも案外むずかしいものである。
そこで今回は、頚椎のズレと鼻づまりのしくみを考えてみたい。
実は鼻づまりは左側に多いようだ。
もちろん右がつまることもあるし、両方いっぺんのこともある。
また、つまるのは鼻だけではない。
耳がつまる耳閉という症状もある。
耳閉になると、水のなかに潜ってでもいるように音がくぐもって聞こえる。
これも珍しくない症状だが、耳閉の場合は鼻とは逆に右から始まることが多いようだ。
鼻と耳とはお隣同士なのに、こんなちがいがあるのもおもしろい。
長年の当誌の読者ならご承知の通り、頚椎がズレるのは左一方向だけである。
では左にだけズレるのに、症状が右にも出るのはどうしてなのか。
これをふしぎに思う人もいるはずだ。
そこでまずは、ズレは左だけでも症状は左右のどちらにでも出るしくみから説明しておこう。
頚椎だけでなく、椎骨がズレるとそのズレた椎骨が周りの神経や血管などに刺激を与える。
するとその刺激が、痛みやしびれといった症状として体の左側に現れる。
ここまでならかんたんだろう。
ところが椎骨が左にズレることで、その真下の椎骨は実際にはズレていないのに、右にズレたような形になる。
この原理は積み木を使って確かめてもらえればわかりやすいはずだが、図にすると下記の通りである。
←【1】
【2】
【3】
ズレたのは【1】なのに、結果として【2】が右にズレたのと同じ形になっているのがおわかりいただけるだろうか。
そしてこの状態になると、【2】の影響で体の右側にも症状が出ることがあるのだ。
また、症状は左右のどちらにも現れるといっても、鼻の場合は症状の出方にもある程度のパターンがある。
もっとも一般的なのは、第1頚椎が左にズレることで左側に症状が出て、その下にある第2頚椎の影響で右側に症状が現れる組み合わせだ。
次によくあるのは、第2頚椎が左にズレることで左に症状を出し、その下の第3頚椎が右に症状を出すパターンである。
どちらが重症というわけではないが、これらのパターンを把握しておけば、ズレを矯正する際に、症状の出たところを聞いただけで、どの骨がズレているのか予測できるので便利だろう。
それでは本題である。
頚椎がズレるとなぜ鼻がつまるのか。
頚椎がズレることで、頸動脈や椎骨動脈に対して機械的な刺激が加わる。
このうち頸動脈に対する刺激が、鼻腔の動脈の血管拡張を引き起こす原因となる。
その結果、鼻腔が狭くなって鼻づまりが起こるのだ。
通常なら、鼻づまりというのは鼻かぜを引いたりお酒を飲みすぎたりしたときに起こる一時的な症状だ。
ところが副鼻腔炎や鼻中隔疾患などであれば、慢性的な鼻づまりになる。
しかし慢性であっても、その多くには頚椎のズレが関与している。
場合によっては、副鼻腔炎や鼻中隔湾曲症のような鼻中隔疾患の直接の原因にもなりうる。
ただし副鼻腔炎と違って、鼻中隔湾曲症で鼻が左に曲がっている場合は、頚椎のズレが解消されて鼻が通ったとしても、鼻の形は元には戻らない。
長期間にわたって鼻が曲がった状態が続くと、骨(顔面頭蓋)が変形してしまうので、鼻の形も定着したままになるのだ。
鼻が左に曲がるのは「アシンメトリ現象」のなかでも典型的な特徴だ。
頭蓋から復元されたコペルニクスや、デスマスクから復元されたイングランド王ヘンリー7世の肖像画でも、鼻が左に大きく曲がっていた。
多分、彼らは鼻が曲がるのと同時に鼻中隔も曲がっていて、生前は左の鼻がつまっていたはずだ。
コカイン中毒だったフロイトは左の鼻が麻痺していたことが知られているが、コカインも「アシンメトリ現象」の原因物質の一つである。
ほかにも、アルツハイマー病患者は左の鼻の嗅覚が衰えているという研究もあった。
嗅覚は脳に直結しているから、それがなぜ左なのかも興味深い。
確かに、鼻づまりぐらいは日常的にだれでも体験することだ。
しかしふだんから鼻で呼吸している人でも、実は両方の鼻の孔から均等に呼吸できているかどうかはわからない。
意識してみると、左だけ微妙に空気の通りが悪い人も多いはずである。
そういう場合は頚椎のズレを疑ってみるとよいだろう。
(花山 水清)