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座頭市の必殺技とモルフォセラピーの立体把握

メールマガジン「月刊ハナヤマ通信」403号 2020/05

 

 先日、YouTubeにおもしろい映像があるのを教えてもらった。

 

空手の師範が、練習中に腕が上がらなくなった人をモルフォセラピーで治しているのだ。

 

それを見た私は、思わず「うまい!」とうなってしまった。

 

 

 私には彼の目の運び方一つで結果がわかる。

 

空手なら、最初に相手と間合いを取った時点で勝負が決まるようなものだ。

 

別に私でなくても、モルフォセラピーの熟練者であれば同じ判断をするだろう。

 

 

 一般的には、施術する側の人間は相手の患部に目が向かう。

 

ところが彼の目は、自分の頭のなかの映像を追っていた。

 

彼の頭のなかには、ズレている骨が正しい位置に戻っていく姿が映し出されている。

 

彼はその映像に従って、手を動かしているだけなのだ。

 

私も施術のときにはそうしているから、それがよくわかる。

 

 

 昔、「座頭市」という映画があった。

 

もう半世紀も前に、勝新太郎が主演してシリーズにもなった大ヒット作だ。

 

勝新が演じた座頭の市は、盲目の渡世人ながら居合の達人でもある。

 

彼は人の動きや気配といったものを、目で見る代わりに音や匂い、肌を通して感じ取ることができた。

 

そして目明き以上に正確な剣さばきで、相手を倒していくのである。

 

そのときの彼も、あの空手家と同じように頭のなかのある一点を見つめるような仕草を見せた。

 

そこに勝新の演技の冴えが光っていたのだ。

 

 

 実はモルフォセラピーはビジュアル重視の世界である。

 

ビジュアルといってももちろん見た目のことではない。

 

モルフォセラピーでは、患者の体に触れた指先の感覚を、頭のなかでビジュアル(映像)に変換する。

 

つまり指先で相手の形を読み取っていくのである。

 

 

 指先で読むといっても決して特殊なことではない。

 

少し前までなら、お釜でご飯を炊くときは音と匂いで炊き上がりを判断していた。

 

今ではそんな芸当ができる人は珍しくなったが、当時はごくありふれた感覚だったのだ。

 

モルフォセラピーも似たようなもので、患者本人に治ったかどうかを訊かなくても、自分の指先の感覚でちゃんとわかる。

 

もちろん難易度の高い病態は別だが、そういう場合でも治ってもいないのに治ったと勘違いするようなことはない。

 

「感覚は欺かない。判断が欺くのだ」とゲーテもいった通り、指先の感覚は自分自身をごまかすことはできないのだ。

 

 

 ところが最近は少し状況が変わってきている。

 

日常の何もかもが機械任せになったせいで、本来の感覚を生かす場面がなくなった。

 

その結果、生来備わっていたはずの能力が急速に失われつつある。

 

なかでも顕著なのが、立体把握の能力ではないかと私は思うのだ。

 

 

 数年前、私は招待されてある怪獣映画を観に行った。

 

昔でいえば特撮物の日本映画である。

 

それを観終わったとき、私は強烈な違和感を覚えた。

 

 

 映画という枠組みでリアリティのある立体を表現するには、空間把握の能力は必須である。

 

「座頭市」では見事にその能力が発揮されていた。

 

例えば冒頭のシーンが、橋を下から見上げるアングルで始まっている。

 

それだけで座頭市が橋の下で寝ているのがわかる。

 

しかも橋を下から見上げた映像などだれも見たことがないから、絵としても斬新だった。

 

それだけで観る人を映画の世界に引き込む力があったのだ。

 

 

 それに比べてこの怪獣映画は、平面を重ねただけのアニメーションのようで、私には到底立体には見えてこなかった。

 

昔の職人ならそこに怪獣を登場させなくても、影がどんどん大きくなってあたりが暗くなることで、怪獣の大きさや近づいてくる臨場感を演出できただろう。

 

CG技術が海外に劣るのは仕方ないにしても、そういった工夫がないのがいかにも拙い。

 

だが生まれたときからアニメーションやテレビゲームのあった世代には、あれでよかったらしい。

 

あの作品が国内では高く評価されていたと聞いて、映像への違和感とともに、世代間のギャップをも強く感じた体験だった。

 

 

 しかしもともと人間は、対象物を平面で把握して理解することはできなかった。

 

今でも動物は平面の世界を理解できていない。

 

鏡に映った自分の姿を敵だと思って攻撃するのもそのためだ。

 

自然界には、いわゆる平面という概念が存在しないのである。

 

 

 人類最初の絵画だといわれる洞窟壁画にしても、現代人には平面に見えるが、当時の人たちにとっては立体の世界なのだ。

 

盛んに宗教画が描かれていた中世のころも、平面に描かれた姿は立体の延長だった。

 

写真が登場した19世紀になってもまだ、人々は立体と平面とを混同し、写真を撮られると魂を抜かれると思って本気で恐ろしがっていたほどだ。

 

ようやく人間が立体と区別して平面を理解できるようになったのは、ごく最近のことである。

 

 

 それが近年では、平面と立体との境目がどんどんあいまいになっている。

 

今や平面は立体の延長ではなく、立体が平面の延長となることで主客が逆転しつつある。

 

さらにヴァーチャル・リアリティの出現とともに、若い世代ではとうとう脳まで変質してしまった。

 

そしてあろうことか、この逆転現象は映画だけでなく、医療の世界にまで浸透しているのである。

 

 

 そもそも人体を立体として把握できていれば、「アシンメトリ現象」はだれでも理解できるはずだ。

 

しかし今の医療では、見ればわかることや手で触ればわかることでも、全て画像や数値に変換してしまう。

 

そうやってデジタル化しなければ、患者の体の状況を把握できなくなっている。

 

その結果、デジタル化しきれなかった情報は、最初から存在しなかったことになる。

 

これが、「アシンメトリ現象」の存在がなかなか医師に伝わらない理由でもある。

 

 

 当誌では何度も採り上げてきたきたように、レオナルド・ダ・ヴィンチの解剖図が優れているのは、平面から立体を再現することを目的として描かれているからだ。

 

つまり、解剖図から内臓という立体を復元して見せることを目指していたのである。

 

逆に、復元を目的としない解剖図では、いくら緻密に描かれていても役に立たない。

 

そこからは立体を把握するための情報は取り出せないのだ。

 

 

 この立体把握という観点からすれば、モルフォセラピーの実践者に格闘技の経験者が多いことも理解できる。

 

対戦ゲームと違って生身の体でおこなう格闘技では、立体把握ができなければ瞬時に倒されてしまう。

 

勝つためには真のリアリティに対峙する能力が必要だ。

 

モルフォセラピーと格闘技とでは、そこに共通性がある。

 

 

 そして今、科学技術の進歩とともに医療はAIに置き換わろうとしている。

 

AIの導入によって、世界中の膨大なデータから得られる正確な診断、再現性100%でミスのない手術、途切れることのない24時間体制のケアなどが期待される。

 

もはや未来の医療には、人間は必要とされなくなるのだろうか。

 

だがモルフォセラピーの技術がAIに置き換わるには、まだ当分時間がかかる。

 

人間の存在がなければ格闘技が成立しないように、今の医療の延長で発展したAIでは、寿命は伸ばせても患者の抱えるリアリティには対処できないのだ。

 

 

 しかし、モルフォセラピーは病気治療というよりも、もっと単純な物理の問題なのである。

 

その点AIの開発者になら、物理の法則として「アシンメトリ現象」を理解してもらえるかもしれない。

 

そう考えると、モルフォセラピーは医療を介さずに、AI開発者と直接連携することで現象の解決もできそうだ。

 

そんな未来に私は少し期待しているのである。

                           (花山 水清)

                        

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