メールマガジン「月刊ハナヤマ通信」401号 2020/03 改訂2020/12
近年、CO2(炭酸ガス)排出量削減キャンペーンの話題が盛んである。
かつての環境問題では、水銀やカドミウム、DDT、ダイオキシンのように、それ自体に毒性のある物質が問題になっていた。
ところが炭酸飲料として日常的に使われていることでもわかるように、CO2そのものに毒性があるわけではない。
それがなぜ問題になるのかというと、CO2が温室効果ガスとして地球を温暖化させ、地球環境や生態系に悪影響を及ぼすと考えられているからだ。
だが調べてみると、地球温暖化には懐疑的な意見も多い。
逆に、地球の寒冷化を危惧している研究者も少なからず存在する。
確かに私がまだ10代のころには、地球はこれから寒冷化して氷河期が訪れるといわれていた。
しかしこの半世紀で、なぜか寒冷化から温暖化へと180度転換してしまったのだ。
ひょっとしてスーパーコンピューターとやらで、正確な予測ができるようになったのだろうか。
仮にそうであっても、明日の天気予報ですらハズレることがある。
それなのに、何十年も先の地球規模の気温まで予測できるかは疑わしい。
だが世界では、地球の温暖化はすでに決定したものとして、石油や石炭などの化石燃料の使用を制限する勢いが増している。
もし本当に地球が温暖化に向かっているのであれば、化石燃料の制限などとのん気なことをいっている場合ではない。
直ちに日本の原発を全て廃炉にしなくてはならないだろう。
今から6~7千年ほど前の温暖化で起こったとされる縄文海進では、海面が2~3メートルも上昇して、現在の日本の海岸線は全て海の底になったのだ。
埼玉県の川越まで入り江だったというから驚くではないか。
これからの温暖化で当時のように海面が上昇したら、海岸線沿いに建てられている日本中の原発は、ことごとく海に沈んでしまう。
そんなことになれば日本だけでなく世界が終わる。
ところが縄文海進のような事態が起こることなど、本気で心配している人はいないようだ。
街が水没するシミュレーション映像を見ても、それはテレビ画面の向こう側の話であって、自分に直接被害が及ぶなどとは考えもしない。
温暖化といっても、せいぜい北極のシロクマが溺れ死ぬのを心配する程度である。
しかし私は地球温暖化よりも「アシンメトリ現象」のほうが、よほど人類にとって差し迫った脅威だと思っている。
そう思えばこそ16年もの間メールマガジンを配信し、本にも書いて警告し続けてきた。
しかも前々回の当誌でもお伝えした通り、人体の「アシンメトリ現象」はこの半世紀の間に急増しているのである。
その原因となっている化学物質や重金属、放射性物質などの有害物質は、回収することも全く想定されないまま環境中に今も放出され続けている。
それもそろそろ限界値に達しているのではないか。
しかしそれらが環境汚染物質として注目されることはあっても、その結果であるはずの人体の「アシンメトリ現象」は一向に問題視される気配がない。
この危機感のなさに私は危機感を覚えるのだ。
これまでにもたくさんの危機情報が世間を騒がせてきた。
日本のマスコミは危機が好きだから、何かにつけて危機感をあおる。
そして巧妙に娯楽に仕立て上げる。
おかげで人々は危機という言葉にも慣れてしまった。
実際、今までに危機といわれてきたことは、全て無事に過去のものとなった。
かつて公害によってあれほど汚れていた空も川も海も、見た目だけはすっかりきれいになっている。
原発の爆発もあれだけの大事故でありながら、チェルノブイリのときのような健康被害は全く報道されない。
日本人の平均寿命はひたすら延び続け、世界最長寿のままだ。
これなら心配したほどは、放射線による環境汚染も環境破壊も起きていないのではないか。
そう思うのも無理はないし、そう思いたい人も多いだろう。
だが残念ながら、何も起きていないわけがないのだ。
民俗学者の宮本常一は、昭和30年ごろの広島湾で魚がいなくなったときの話を残している。
--〔↓引用はじめ〕---------------
工場ができるまでは広島湾は魚の非常に多い湾だったんです。
あらゆる魚がおったんです。
ところが、その魚の中で何もかもが一緒に姿を消したのではないんです。
最初に姿を消したのは鰆(さわら)です。
鰆が全然取れなくなったんです。
しかしほかが取れるからだれもなんとも言わなかった。
そのうちに太刀魚が取れなくなったんです。
一匹もいまいない。
そういうように見ておりますと取れる魚がどの魚もだんだん減ってくるんならわかるんだが、ある種の魚は絶滅する。
そういうふうにしてだんだん減っていったんだから、魚が減っていくことがわからなかったんですね。
--〔↑引用おわり〕(※)---------------
環境破壊の影で、生き物は静かに姿を消していく。
日本近海のイカやサケなどは、毎年のように漁獲量が激減したと報道される。
だがこれは魚介だけの問題ではない。
多くの国で人類も急激な少子化に直面している。
すでに人類にも異変が起きているのに、だれも本質に気づいていないだけなのだ。
例えば鳥や虫の場合、絶滅に瀕した種(しゅ)は羽などの大きさに左右差が現れることがある。
私たちの体にも「アシンメトリ現象」という形で左右差が現れている。
これは絶滅の前兆ではないのか。
もちろんどんな生き物も、いずれは絶滅する運命にある。
現在も地球上の至るところで、毎日おびただしい数の種(しゅ)が絶滅している。
人類だって、ホモ・ハビリスやホモ・エレクトス、近いところではネアンデルタール人のように、過去には何度も絶滅しているのだ。
ノーベル賞を受賞した物理学者のピエール・キュリーは、「絶滅は進化の過程だ」といった。
それなら悲観する話でもないのか。
だが絶滅が自然界では当然であっても、わざわざ加速させたくはない。
人類はマンモスハンターだった時代から、生きるために何度も環境破壊を繰り返してきた。
ところが以前と違って、今の破壊の矛先が向かうのは地球環境ではない。
私たちの体内環境なのである。
その破壊は世代を越え、すでに遺伝子レベルにまで到達したように見える。
しかし科学の世界で「アシンメトリ現象」が認識されれば、原因不明の諸症状に対して、あちこちでやみくもに行われてきた研究を、まとめて一挙に解消できる可能性もある。
そうなれば人類絶滅の危機も回避できるかもしれない。
そこに私は、わずかながらも希望を持っているのである。
(花山 水清)
※『なつかしい話』宮本常一「自然を語る」+川合健二p.251