メールマガジン「月刊ハナヤマ通信」396号 2019/10 改訂2020/12
先日、耳鼻科の専門医であるF先生から、今回出版した本の感想とともにいくつかのアドバイスのお手紙をいただいた。
その一つに、「アシンメトリ現象」には「内臓の重さの変化も関係しているのではないか」というご指摘があった。
前回の当誌でもお伝えした通り、内臓は左右で形や大きさが異なるものであるから、体の重さにも左右でちがいがあるかもしれない。
もし体の重さに左右差があるなら、当然、力学的にも「アシンメトリ現象」に影響しているはずだ。
この場合の重さとは、すなわち重力のことである。
「アシンメトリ現象」と重力の関わりについては、以前にも当誌で説明した。
左の骨格筋が抗重力筋として過度に働くと、左起立筋などに形態的な変化を引き起こし、背骨のズレを誘発するという話だ。
(389号 体が左右非対称なのは、左の脊柱起立筋の異常な収縮が原因だった)
では実際のところ、体の左右で重さにちがいがあるのだろうか。
ふだんから自分の体重に気をつけている人は多いが、体の左右の重さのちがいまで意識する人はいない。
まして体の重さの左右差について、研究している人も一人もいないだろう。
私にしても、体の左右の重さのちがいをどうやって量ればよいのかはわからない。
しかし、仮に左右の重さのちがいがわかるものなら、「アシンメトリ現象」の度合いを測る一つの指標になるかもしれない。
「アシンメトリ現象」の場合、左半身の抗重力筋が右よりも過剰に緊張しているのだから、左半身は重くなっているはずだ。
これはつまり、左半身のほうが重たいから、右よりも抗重力筋が緊張していると考えられるのである。
ではここで、体の左右の重さのちがいと健康状態との関係についても考えてみよう。
私たちは日ごろ、内臓だけでなくさまざまな重さに耐えて暮らしている。
なかでも日常的にほとんど気づくことがないのが、大気の重さだろう。
大気の重さとは、いわゆる気圧のことである。
この気圧の変化によって、体調の変化を訴える人は少なくない。
そのため気圧と体調の変化との関係は、何かと話題になることが多い。
都市伝説的な話もあるが、医学的にもいくつかは研究され、近年は気象病やお天気病などと呼ばれるようにもなった。
しかしいくら医学的に新しい病名をつけたところで、気圧変動による体調変化の仕組みそのものは、まだ科学的に解明されているわけではない。
ところがここに背骨のズレという概念を取り入れれば、問題は一挙に解決する。
例えば、古傷が痛むことで明日の天気がわかる人がいる。
しかしそういう人の背骨のズレを治すと、明日の天気がわからなくなってしまう。
古傷の痛みの実体は、単なる背骨のズレによる症状だったのだ。
気圧の変化とは体にかかる重さが変わることだから、その変化によって筋の緊張が増す。
すると背骨のズレが大きくなって症状が出ていたのである。
では、背骨は気圧が上がるとズレるのか、下がるとズレるのか、どちらだろう。
結論からいえば、答えは「両方」なのである。
高気圧になると体にかかる重さが増すので、抗重力筋はふだんよりも余計に働くことになる。
すると、ズレかけていた背骨が筋の緊張によって、さらに大きくズレて症状が出る。
それなら低気圧のときは、体にかかる重さが減るのだから、楽になるかというとそうはいかない。
「アシンメトリ現象」における左側の抗重力筋の過度な緊張は、気圧が低下した程度では弱まらないのである。
逆に右側だけ筋の緊張が弱まる分、相対的に見れば左の筋の緊張が強まったことになってしまう。
そうなると結果として背骨は左にズレる。
結局、高気圧だろうと低気圧だろうと、「お天気の変わり目には背骨がズレやすくなる」のである。
ただし、高気圧と低気圧とでは背骨のズレる位置は微妙にちがってくる。
そして、ズレる位置のちがいが症状のちがいとなって現れる。
統計的には、高気圧のときはぜん息の症状が出やすくなるといわれている。
しかしぜん息の症状は、胸椎のズレによって起きていることが多い。
胸椎がズレると、呼吸のときに肋間筋がひきつるので、ぜん息発作の引き金になるのである。
では低気圧のときはどうか。
低気圧が近づくと目まいや頭痛などが起こりやすい。
この場合の目まいや頭痛は、頚椎のズレが原因であることが多いようだ。
また頚椎がズレると椎骨動脈が圧迫されるので、脳への血流が阻害される。
その分、頭が重だるくなったり、強い眠気で起き上がれなくなる人までいる。
医学的には、椎骨動脈の左右の血流のちがいによって、目まいが起きることまでは知られている。
しかし、頚椎がズレることで血流が変化することまでは知られていないのだ。
実は今回アドバイスをくださったF先生は、目まいの専門家として著名な医師である。
そのF先生が学生のころに師事していた故・桧学(ひのきまなぶ)医師は、「目まいと脊柱起立筋との関係」を研究されていたそうだ。
そこで桧先生の著書を読んでみると、「脊柱起立筋の緊張を弱めることで、目まいの症状に変化が現れた」という内容の記述があった。
(※『めまいの科学』桧学著/朝倉書店発行)
この実験結果は、脊柱起立筋などの抗重力筋の緊張が、背骨のズレを助長していることの証明の一助ともなる。
そもそも背骨がズレている状態というのは、人体における対称軸がズレていることになる。
通常なら、体の重さの中心である重心は、必ず対称軸上にある。
ところが対称軸であるはずの背骨がズレると、重心もズレてしまうのだ。
これは、体の重さに左右でちがいがあることの証にもなる。
やはりF先生のご指摘の通り、「アシンメトリ現象」とは、内臓の重さの変化によって体の重さに左右差が現れた状態だということになるだろう。