花山 水清
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サレルノ養生訓とレオナルド・ダ・ヴィンチの健康法

メールマガジン「月刊ハナヤマ通信」382号 2018/08

 


 来年2019年は、レオナルド・ダ・ヴィンチの没後500年に当たる年である。

そのためこれからしばらくは、あちこちでダ・ヴィンチが話題になるだろう。

当メールマガジンでも、『 ダ・ヴィンチ作品に見る「アシンメトリ現象」 』と題して、ダ・ヴィンチについて3回にわたってお伝えしてきた。

また、来週(8月7日)には、武蔵野美術大学でも上記の内容で講演を行うことになっている。

そこで今回は講演に先駆けて、ダ・ヴィンチのこれまであまり知られていなかった側面について書いてみようと思う。


 彼はその生涯において、膨大な量の手記を残したことで知られている。

日本では、その一部を杉浦明平が翻訳した『 レオナルド・ダ・ヴィンチの手記 』が有名だ。

そこには絵画についてはいうまでもなく、科学論から人生論にいたるまで、さまざまな分野について書かれている。

健康についても、ダ・ヴィンチならではのユニークな記述が見られるのである。

これまで、ダ・ヴィンチの健康法が一般的な話題になることはなかった。

 

そこでまずは、人生論の章にあった「君もし健康たろうと欲せば」という書き出しで始まる記述から抜粋してみよう。


--〔↓引用はじめ〕---------------

君もし健康たろうと欲せば次の規則をまもりたまえ。

食いたくないのに食うなかれ、軽く食べよ。

よく噛め、摂取するものはじゅうぶん煮て、料理はかんたんに。

薬を飲むものは療法をあやまるもの。

立腹をやめて、淀んだ空気をさけよ、食卓をはなれたときは、姿勢を正しくしたまえ。昼間うたたねしないように。

酒は適度に、少しずつ何回も。

食事をはずさず、また空腹をかかえているなかれ。

便所は待つな、ためらうな。

体操するなら動きを少なく。

腹を仰向け、頭を下げているな、夜は布団をよく着るよう。

頭は休め心は爽快にしていること。

肉欲をさけて食養生をまもれ。

--〔↑引用おわり〕---------------


いかがだろうか。

残念ながら、さすが天才ダ・ヴィンチは違うと思わせるような内容ではない。

 

いたって月並みだ。

これは貝原益軒の『 養生訓 』だといわれても、ちがいがわからないだろう。

 

実はこの記述は、彼の蔵書のなかにあった『 サレルノ養生訓 』と『 佳き生活と健康 』からの引用が主であって、ダ・ヴィンチ本人が考えたものではない。

「君もし健康たろうと欲せば」の一文も、サレルノ学派の医師団が当時のイギリス国王に書き送ったものと全く同じなのである。


 ここで『 サレルノ養生訓 』と『 佳き生活と健康 』についても、補足しておこう。

『 サレルノ養生訓 』は、ヨーロッパ最古の医学校であるサレルノ医学校の医者たちによって書かれたものが、1481年にミラノで出版されている。

この本には、『 ヒポクラテス全集 』を翻訳した大槻真一郎や渡辺怜子による翻訳書があったので、私も目を通した。

一方、『 佳き生活と健康 』("Il Piacere Onesto e la Buona Salute")は、人文学者バルトロメオ・プラティナ(Bartolomeo Platina)によって、1475年にローマで出版されている。

そのなかに

「料理は食材の自然な味を生かした、単純な、しかし洗練された味わいであること、そして、同時に、節度ある生活態度が健康をもたらすこと」

 

という記述がある。

もう少し読み進めたい気もしたが、同書には渡辺氏による抄訳しか見当たらなかったので、それ以上のことはわからない。


 しかし『 サレルノ養生訓 』も『 佳き生活と健康 』も、ピタゴラスやヒポクラテス、ガレノスなどといった、古代ギリシア・ローマ時代の影響が大きい。

これらの本は、ルネサンス期の文化人たちに広く愛読されており、ダ・ヴィンチもその一人だったようだ。

『 サレルノ養生訓 』なら、現代でも健康法として通用しそうだ。

 

ところがその考え方のベースとなっているのは、古代ギリシア以来の四体液説や瀉血などだから、現代にはそぐわない内容も多い。

ダ・ヴィンチの生きた時代というのは、近代科学の黎明期であり、医学はまだ古代を引きずっていたのである。


 また一口に健康法といっても、彼の時代と現代とでは、周りを取り巻く環境があまりにも違いすぎる。

18世紀後半に始まった産業革命によって、自然科学は急速に進歩した。

 

そしてそれまでには存在しなかった化学物質や、かつて人類が浴びたことのないような放射線や、遺伝子組み換え技術なども登場した。

その結果、それらが敵味方入り乱れた形で、人体にとてつもなく複雑な影響を及ぼすようになってしまったのだ。

 特に化学物質が環境に及ぼす影響は、レイチェル・カーソンの『 沈黙の春 』が出版された1962年以来、世界中で注目されてきた。

この邦訳も話題になったが、1975年に有吉佐和子の『 複合汚染 』が出版されたことで、さらに大きな社会問題として日本でも意識されるようになった。

当時学生だった私も、同書には衝撃を受けた記憶がある。

しかし70年代の日本といえば、環境破壊など意に介さず、ひたすら高度経済成長の路線をひた走っていた。

 

その姿は、諸外国からは「破滅の急行列車」と揶揄されていたのである。


 今あらためて『 複合汚染 』を読み返してみると、「化学物質の種類はこの100年で200万倍にまでなっている」という驚きの数字に目が止まる。

それから40年以上たった今では、さらに桁違いの数の化学物質が「新たに」作り出されているのである。

その影響たるや、人類にとって全く未知の領域に突入して久しい。


 さらに、われわれを取り巻く環境問題の要因は化学物質だけに留まらない。

1895年の放射線の発見以来、軍事・発電・医療などへの利用を通して、膨大な量の放射線にさらされて暮らしている。

原発爆発事故以降の日本となると、すでに「破滅の急行列車」どころではないのだ。

このような状況では、どんな健康法を提唱したところで、全て空疎なものに思える。

そのため、私が考えてサイトに掲載していた「健康21ヶ条」も削除した。

※この経緯は320号「健康を考える」をお読みいただきたい。

そして、それ以後の当誌では、「アシンメトリ現象」の解消法以外に、正面切って健康法を取り上げることはなかったのである。


 しかしあれから5年以上が過ぎた。

 

今でも相変わらず、私は健康法について訊かれることが多い。

もちろん、背骨のズレの原因となる物質を取り込まないように、食生活に気を配ること、しっかり歩いて代謝を良くすることなどは、訊かれなくてもお伝えしている。

だが時間の都合もあって、踏み込んだ話まではしてこなかった。

 

 では、そもそも健康とは何か。

 

健康とはどのような状態のことだろうか。

健康は、年齢や健康診断の数値から判断できるものではない。

結論からいえば、健康とは、気分良く「食べて」「出して」「眠れる」ことなのである。

この3つは、他の何事にも優先すべき生活の基本であって、どれ一つ欠けても健康は成り立たない。

仮に寝食を忘れるようなことがあっても、それはほんの一時のものである。

先述のダ・ヴィンチが掲げていた規則も、大きくは食事・排泄・睡眠の3項目に集約されるだろう。

やはりどんなに時代や環境が変わっても、人類にとって重要なことは共通しているのである。

そして現代では、この大事な3項目を阻害する要因の一つが、「アシンメトリ現象」の存在だ。

そこで次回からは、「ダ・ヴィンチ健康法」と題して、彼の手記から健康にまつわる記述を拾いながら、現代人の健康について考えてみようと思う。

(花山水清メールマガジン 「月刊ハナヤマ通信」) 

 

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