メールマガジン月刊ハナヤマ通信 374号 2017/12
前回、線維筋痛症(FMS)の話を採り上げたら、意外なほど大きな反響があった。
そのなかで私も驚いた話があるので、ぜひ紹介しておきたい。
ある方の知り合いが、ひざの痛みを始めとするさまざまな関節の痛みに悩まされて、病院を受診した。
ところが検査しても何も問題が見つからないので、線維筋痛症だと診断された。
そして医師からは、「治療にはプレドニンの集中投与しかありません」といわれたそうだ。
プレドニンとは、副腎皮質ステロイド剤で、関節リウマチや膠原病などに対して、抗炎症や免疫抑制を狙って使用される薬である。
しかしステロイド剤というのはリウマチ性多発筋痛症にはよく効くが、いわゆる検査で異常が見つからないような線維筋痛症には、効果が見られないどころかむしろ悪影響を及ぼすことが多い。
そのように薬の専門書には記載されているのだ。
それがいつの間にか、線維筋痛症にはステロイド剤の投与が標準治療になってしまっているらしい。
以前なら、線維筋痛症は病院で治療を受けても、単に治らないだけだったから、私も大して問題視してこなかった。
ところがプレドニンが標準治療で使われているとなると、話が違ってくる。
プレドニンなどのステロイド剤を使用すると、副作用としてステロイド性骨粗鬆症による骨破壊が進むことがある。
特に集中投与をした場合は、大腿骨頭(大腿骨の骨盤側にある球形の部分)の壊死が起こりやすくなることが知られている。
線維筋痛症の症状の一つであるひざの痛みには、腰椎や骨盤のズレの影響が大きい。
特に骨盤がズレると、大腿骨頭に非常に負荷がかかりやすくなる。
その状態でプレドニンなどのステロイド剤を使用すると、骨頭壊死になる危険性が高まるのだ。
そうなれば、治療目的の投薬によって、元々の症状以上の病態を作り出すことになってしまう。
この点を私はたいへん危惧している。
線維筋痛症だけでなく、突発性難聴や顔面神経麻痺などでステロイド剤の集中投与を受けた人に対しても、私は大腿骨頭壊死の予防のため、腰椎と骨盤のズレを入念に矯正するようにしている。
しかし医師の場合は、ステロイドでまれに大腿骨頭壊死を起こす患者がいることまでは知っていても、どのようなタイプの人に骨頭壊死が起こるかについては全く知らない。
線維筋痛症と診断されるような人は、全員が腰椎と骨盤がズレていると考えられるので、ステロイド剤によって大腿骨頭壊死を起こす確率も高くなることなど知るはずもないのだ。
このようなことを書くと、今現在ステロイド治療を受けている方は怖くなって薬を止めたくなるかもしれない。
しかし絶対に自己判断では薬を止めないでいただきたい。
ステロイド剤を突然中止すると、副腎不全によるショック症状を起こして、非常に危険な状態になる恐れがあるからだ。
また、ステロイドが非常に優秀な薬であることも、疑いようのない事実だろう。
病気の種類によっては選択の余地などなく、ステロイド治療をおこなわなければ、生命を危険にさらすことになる場合もある。
従って処方された薬に関しては、必ず担当医と相談した上で判断していただきたい。
さて前回の当誌では、線維筋痛症の類似疾患として、慢性疲労症候群(CFS)や顎関節症、間質性膀胱炎も、背骨のズレによる症状である可能性が高いことをお伝えした。
これについても、補足の説明をしておきたい。
50代の男性Aさんは、冬にスノーボードで大転倒をしてしまった。
それ以来、骨盤内に気になる痛みが続き、それと同時に昼夜を問わない頻尿で困っていた。
整形外科と泌尿器科を受診したが、検査では原因が見つからないし、症状も全く改善しなかったのだ。
挙句の果てに医師は、「Aさんは仕事をきちんとしなければ気が済まないタイプですよね」といって、暗にストレスが原因のうつだという話に誘導した。
その時点でAさんは、「あ、こりゃダメだ」と見切りをつけたそうだ。
医師がストレスの話を持ち出したら、「治りません(=治せません)」といっているのと同じだから、Aさんのようにさっさと帰り支度をするのが得策だろう。
このAさんの症状を病院的に判断するなら、頻尿は間質性膀胱炎や過活動膀胱となるのだろうし、骨盤内の痛みに加えて腕の痛みもあったので、線維筋痛症だと診断されてもおかしくはない。
また、背骨のズレは交感神経の働きを強めるので、体は常に緊張状態が続いて睡眠をとっても疲れが取れない。
すると、朝、目が覚めた瞬間から、「あ~疲れた」といいたくなるような状態だ。
これは典型的な慢性疲労症候群のパターンだし、やはりこれもうつだと診断されるケースが多いだろう。
だが実際にAさんの体を調べてみると、これらの症状は全て背骨のズレが原因だった。
しかも彼のズレには、スノーボードでの転倒による外傷的な要素も加わっている。
これが単なる外傷だけなら、時間がたてば自然に症状も収まっていく。
だがその大本に背骨のズレという要素があれば、ズレが戻らない限り、いつまでたっても症状は改善されない。
背骨のズレ+外傷であれば、矯正で症状を完全に取り去るのにも、通常より時間がかかる。
Aさんの場合も予想通り、多少時間はかかったが、何度か矯正を重ねることで痛みや頻尿の症状は改善していった。
実は、医師とのやり取りも含めて、このAさんと同じパターンを経験する方はとても多い。
以前なら、痛みなどの症状が原因不明なら、ストレスのせいにされて心療内科の治療対象になることが多かった。
しかし今後は、線維筋痛症と診断されるケースが激増する気がする。
それに伴って、不適切な投薬治療で症状はさらに複雑化し、ますます解決の道が遠のきそうだ。
背骨のズレによる症状というのは、どんな病名でくくろうとも、原因となっているズレそのものを矯正する以外に解決策はない。
逆に言えば、ズレさえ戻してしまえばいいのである。
もちろん多くの医師にとっては、背骨のズレが症状を出すという話は受け入れ難いだろう。
だが、線維筋痛症の患者にステロイド剤を集中的に投与すると、大腿骨頭壊死を起こす危険性が高いという事実だけでも、認識しておいていただきたいと思うのだ。
(花山 水清)