メールマガジン月刊ハナヤマ通信 373号 2017/11
私は日ごろテレビを見ていないせいか、流行にうとい。
まして芸能関係となると平成以降のことなどまずわからないし、あまり興味もない。
ところが、日本でも有名なレディ・ガガというアメリカの人気歌手が、線維筋痛症(FMS)で活動の休止を表明したという話をきいて関心をもっている。
線維筋痛症については前回も軽く触れたが、10数年前にも説明したことがある。
そのときは、線維筋痛症は背骨のズレによる症状を羅列しただけだと結論づけた。
つまり、背骨のズレを矯正すれば解決する話なので、その存在をあまり重く考えてこなかったのである。
しかしあれから10年以上たつというのに、医学界では症状の原因解明から治療法に至るまで、全く進歩していない。
そして患者数だけが増え続けている。
確かに、背骨のズレという視点を持っていなければ、原因不明で非常に厄介な疾患に見えても仕方がない。
ガガさんのような、極めて有利な立場の著名人でさえ、難儀しているのである。
そんな話が、私のような者の耳に届く程、世の中の人にとっても重大な関心事なのだ。
そもそも線維筋痛症とは、全身のさまざまな痛みやこわばり、めまいや吐き気、月経困難、神経症状などといった、原因不明の症状の総称である。
同様の疾患としては、慢性疲労症候群(CFS)、顎関節症、間質性膀胱炎などもある。
だがこれらは全て、背骨のズレによる諸症状に対して、それぞれのくくり方を変えて病名を付け替えただけである。
また、線維筋痛症は血液検査や画像検査では異常を特定できないため、病院では断定的な診断を下すことができない。
唯一の足がかりとされているのは、圧痛点を用いた診断方法である。
圧痛点というのは、指で表皮を圧迫すると特異的な痛みを感じる場所のことだ。
そして全身にある18か所の圧痛点のうち、11か所以上に痛みが認められれば、線維筋痛症だと診断される。
医学的には、線維筋痛症のほかにも、いろいろな疾患にそれぞれ特有の圧痛点があるそうだ。
そういえば私が子供だったころの1950~60年代には、腹痛を起こして病院に行くと、医師が腹部の圧痛点を押して、虫垂炎かどうかを判断していた。
その後、1970年代ぐらいからは、分子生物学が急速に進歩した結果、痛みに対する遺伝子やタンパク構造が分子レベルで解明され始めた。
また、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)の開発によって、痛みによる脳の活動部位や神経回路網が可視化できるまでになったのである。
痛みというのはあくまでも本人の自覚的なものであるから、それ以前は痛みを数値や画像に置き換えて客観視することができなかった。
つまり、患者の痛みの度合いを正確に理解するすべがなかったのである。
それが科学の進歩によって可能になったのだから、痛みに対する医学は歴史的な大進歩を遂げたはずだった。
ところが線維筋痛症の診断は、半世紀前のレベルを超えられずにいるようだ。
背骨の矯正で痛みが消えた患者さんたちから、「病院ではエックス線で撮影までしているのに、なぜ背骨のズレに気がつかないのか」とよくきかれる。
たった数分の手技であっけなく片づく症状が、病院で散々検査を受けて治療しても治らない。
それどころか原因すらはっきりしない。
しまいには精神的な思い込みだとまでいわれるのだから、不満も出るだろう。
その不満の矛先をこちらに向けられても困るのだが、確かにエックス線画像でも背骨のズレを見つけられるはずではある。
しかし、もし完璧なエックス線の画像が揃っていたとしても、それを見る医師に「背骨がズレているのではないか?」という視点がなければ、全く役に立たないのだ。
残念ながらどんな立派な組織や団体でも、システムのでき上がった業界で、当事者が自らの視点を変えることは難しい。
特に医学の世界では、最先端の研究者が一歩引いた状態で医学の全体像を見ることなどできない。
そんなことができるのは、よほどの天才かドロップアウトした人間ぐらいだ。
そのため、脳科学や分子生物学といった最先端医学で、どんなに痛みの研究が進んだとしても、その視点からでは痛みの原因である背骨のズレという現象が発見されることはないだろう。
それならば、古典的だが圧痛点を探す技術が向上したほうが、背骨のズレという現象にたどり着く可能性は高いかもしれない。
ただし、モルフォセラピーの技術レベルから見れば、圧痛点の診断方法はまだまだ未熟である。
たとえば線維筋痛症の場合、体の表側8か所、裏側10か所に圧痛点を指定しているが、これではまるで漢方医学のツボの発想である。
漢方でいうところのツボは、押す人によっても地域や時代によっても位置が微妙に異なるため、かなり定義があいまいだ。
この事実が、漢方のツボを批判してきた医師たちの常識だったはずである。
ところが線維筋痛症の圧痛点となると、なぜかツボ同然のあいまいさを許容しているのだ。
一方、モルフォセラピーで圧痛点のように刺激する場所を指定するときには、特定の神経名を用いる。
しかも圧痛点診断のように、4kgもの強い力で垂直に押すような危険なことはしない。
4kgというのは、押して爪が白くなるぐらいの力が目安だとされているが、力の逃げ場を作らずに4kgもの力を患者の体に加えたら、どんな不具合が起きてもおかしくはない。
少なくとも、線維筋痛症の症状を悪化させるぐらいの影響は十分に考えられるのだ。
単なる診断だけのために、そこまでの力を入れるのは避けるべきである。
モルフォセラピーの上級の手技では、肩にある肩甲背神経をねらって刺激することがある。
そのとき施術者は、指先の向こうに神経の位置を感じ取って、そこに軽く指を当てる。
この軽く触れる程度の弱い力であっても、ピンポイントで当てれば、患者は肩甲背神経上に鋭い走るような痛みを感じる。
そうやって施術者が患者の全身に刺激を加えていくことで、背骨のズレによって鈍くなった神経の働きを、一挙に正常化させることもできるのだ。
さらに、背骨のズレの度合いや組織の変化の具合、リンパの腫れ方などを総合して、患者の痛みの違いを、指先で客観的に判断することもできる。
単なる手技といえども、これはかなり高度だろう。
従って、なにも最先端医学を持ち出すまでもなく、線維筋痛症レベルならモルフォセラピーは十分に活用できる技術なのである。
さてこのように改めて考えてみると、背骨のズレという現象を伝えることに夢中になりすぎて、その解消のための手技である「モルフォセラピー」についてはあまり伝えてこなかったことに気がついた。
私にとっては当たり前すぎて、この技術の特殊性や有用性を意識していなかったようだ。
今回はたまたま圧痛点が呼び水となって思い出したが、また折を見て、モルフォセラピーの技術的な話にも触れていければと思う。
(花山 水清)