メールマガジン月刊ハナヤマ通信 367号 2017/05
日本モルフォセラピー協会では、指導者たちが定期的に集まって、症例を発表する会がある。
そこでは毎回、重大疾患や難病に対しての施術効果の実績が報告される。
そのなかで先日、「おや?」と思う発表があった。
小学6年生にもなるのにまだおねしょが続いている子供さんが、親御さんに連れられて治療院を訪れた。
施術者は通常通り、その子の背骨のズレを矯正した。
するとその夜から、おねしょがピタッと止まったというのだ。
同様のことは、大人の尿失禁や尿もれにも当てはまる。
ただし子供のおねしょと大人の尿失禁や尿もれとは、分けて考えなければいけない。
子供がおねしょをするのはごく自然なことである。
子供の頃に、一度もおねしょをしたことがない人などいないはずだ。
そのような誰にでも共通して発生する生理的な現象を病気とはいわないし、成長するにつれて、皆おねしょなどしなくなるものである。
ところがこの子のように、ある程度の年齢になってもおねしょが続くようなら、夜尿症として病院での治療の対象となる。
夜尿症は、大人の尿失禁と同様、医学的には原因がわかっていない。
成長期特有の、不安定な精神状態の影響だと診断されることも多い。
だが夜尿症の原因が、精神的なものであろうとなかろうと、医学上は確定的な治療法が存在しない点に変わりはないのだ。
しかし脳疾患などの特殊な例を除けば、一般的に見られる大人の尿失禁・尿もれは、腰椎や骨盤のズレが原因なのである。
また、腰椎・骨盤のズレが原因であることから、そのズレによって腰痛を併発しているケースも多い。
つまり腰痛患者が増えれば、それに比例して尿失禁や尿もれの患者も増えることになる。
この現象が、最近では大人だけでなく子供にまで広がっているようなのだ。
確かに、しばらく前から腰痛持ちの子供は珍しくはなくなった。
もちろんこれは腰椎や骨盤がズレている子供が増えたからである。
腰椎・骨盤だけでなく他の椎骨もズレているから、子供たちの体には頭のてっぺんから足の爪先までさまざまな症状が現れる。
しかし子供の場合、それらの症状で病院を受診すると、主に成長痛として処理されてしまうことが多いのだ。
成長痛とは、成長期の子供のひざやかかとに出る関節痛のことである。
そのほとんどが、病院の検査では問題が見つからないため、急激な成長によって生じたひずみが原因だと考えられていた。
ところがその後、成長痛は成長そのものとは関連が少なく、精神的なものが原因だといわれるようになってきた。
それが近頃では、成長痛のことを骨端症などと呼ぶようにもなっている。
骨端症とは、成長軟骨層が外傷やストレスによってダメージを受けることでひざやかかとなどに特徴的な疼痛が生じる疾患だといわれる。
だが実際には、それらの疼痛は年齢には関係なく、ごく一般的に見られる症状なのだ。
成長痛と呼ぼうが、骨端症と呼ぼうが、ひざやかかとなどの下肢の痛みのほとんどは、腰椎・骨盤のズレが原因である。
医学の世界では、原因が特定できない症状に対して、あれこれと病名を付け替えてお茶を濁すことが多い。
しかしそれで治療成績が上がった試しはない。
そもそも痛みという症状に対して、大人と子供で診断名を変える理由などどこにあるのか。
子供だけしか痛みを感じない疾患などあるわけがないから、全く合理性に欠けている。
それらは単に関節痛としてくくるべきであって、患者の成長に応じて対処の仕方を少し変えればよいだけだ。
実はモルフォセラピーでは、成長期の子供に対する施術はあまり積極的におこなっていない。
成長段階にある子供は、大人ほど骨が丈夫ではないので、用心してかなり弱い力で施術する必要がある。
また子供というのは、体の状況や意思を大人ほど適切には表現できないことから、思わぬ誤解が生じる危険性もある。
そのため大人とは比較にならないほど神経を使うし、われわれは医師ではない以上、危険を回避することを優先すべきだからである。
だが実際のところ、大人よりも子供のほうがモルフォセラピーの施術効果が大きい傾向はある。
成長期というのは、大人よりも回復力が大きいのかもしれない。
また子供の背骨のズレを矯正すると、不快な症状が解消されるだけでなく、急に身長が伸び始めることがあるのも興味深い点である。
なぜ身長が伸びるのか。
背骨のズレというのは椎骨が傾いた状態だから、その傾きを正しい位置に戻してやると、その分だけ身長が伸びる。
つまり身長が伸びたというよりも、本来の身長に戻るのである。
それでも何か所も背骨がズレていれば、大人でも1、2cmぐらいは身長が変化するものなのだ。
ところが子供の場合は、ズレを戻した直後からぐんぐん身長が伸び始めることもある。
私だけでなく、他のモルフォセラピーの施術家たちからも、同じ症例を聞いたから、決して珍しいことではない。
証明はできなくても、背骨のズレが子供の成長を阻害していた可能性は十分にあるだろう。
例えば、椎骨がズレると成長軟骨に不自然な力が加わる。
植物でも、障害物があるとまっすぐには伸びないのと同じことだ。
また背骨のズレが成長ホルモンの分泌に影響していたとも考えられる。
そういえば、戦後ずっと伸び続けてきた日本人の平均身長が止まってしまったという話を聞いたことがある。
身長の伸びは、ある程度は栄養状態と比例しているから、戦後の経済成長とともに平均身長も伸び続けていたのだ。
それがここに来て止まったのは、日本人の遺伝子としての限界に達したからだといわれている。
しかし本当は、背骨がズレている子供が増えたせいかもしれない。
元々、身長の高い・低いは健康とは関係がない。
だがそこに背骨のズレが介在していたなら、平均身長の変化は、その集団の健康状態を表すバロメーターの一つとなり得る。
もちろん背骨のズレは、身長に影響するだけにとどまらない。
目には見えなくても、臓器の成長やホルモン分泌にも影響している可能性がある。
すると平均身長の伸び止まりは、その集団の健康が阻害されている証拠だと見ることもできるだろう。
あるところに、いくら叱っても姿勢が悪い子やじっとしていられない子がいた。
親も先生も困り果てていた。
そういう子供たちの背骨のズレを矯正したら、自然と姿勢が良くなってじっとしていられるようになった。
このように、本人が体の状態をうまく言葉で表現できないせいで、周囲の大人から厄介な子だと誤解されている例は多い。
さらに近年、子供たちの運動機能の低下が著しいこともよく耳にする。
遠くから見ただけでも、今の子供は骨格が妙だと感じるようになって久しい。
やはり背骨のズレが、大人だけでなく子供の健康にも影響していることは間違いのない事実なのだ。
ところが、ラマチャンドラン(Vilayanur S. Ramachandran)の著書『 脳のなかの幽霊
』が話題になって以来、医学の世界では、腰痛などの原因不明の症状は、ことごとく脳が勝手に作り出した幻想のような存在になってしまった。
その傾向はますます強くなっている。
養老孟司氏などが絶賛したおかげで、ラマチャンドランは、閉塞状態にあった日本の医学界の救世主になった感すらある。
だが医師たちは救われても、当の患者たちは救われないままである。
「本当は痛くないのに、脳が過剰に反応して痛みを演出しているだけですよ」
などと医者からいわれたら、子供は「おまえが悪い」といわれているように感じないだろうか。
それは子供にとって、今感じている痛み以上に酷ではないか。
いくら最先端の脳科学による分析だとしても、私には立場の弱い者に都合のいいウソを押し付けているようにしか思えないのである。
(花山水清)