メールマガジン月刊ハナヤマ通信 363号 2017/01
このところずっと、がんの転移の謎について考え続けていた。
そしてこの年末になってやっと大まかな道筋が見えてきたので、今回はこの発見についてお伝えしようと思う。
がんという病気の最大の問題は転移である。
がんが転移するかしないかは、患者の生存率に大きく影響する。
末期といわれる転移のあるがんの場合、指標とされる5年生存率が極端に低くなってしまう。
しかしがんの5年生存率は、転移の有無に関係なく算出されている。
これを転移のあるがんとないがんとに分けて計算すれば、両者の生存率には大きな開きが出るはずだ。
転移前のがんなら早期発見だから治る可能性が高いのだろう、などという単純な話ではない。
転移のないがんというのは、がんではないのにがんだと誤診されている可能性が高い。
つまり誤診率が高くなっていると考えられるのだ。
一般の人は、そんなバカな話があるかと疑うかも知れない。
しかしがんの研究が進歩したと考えられている現代でも、確実ながんの判定方法は存在しない。
がんかがんでないかは、いまだに病理医が顕微鏡をのぞき込んで、がん細胞の形を目で見て判断しているのだ。
形が少々違っているからがんだろうというのでは、こいつは人相が悪いから悪人だろうというのと変わらない。
それならそれで、今時はコンピュータの画像解析で瞬時に自動識別できそうなものだが、なぜかそれができない。
今の科学技術なら、形の自動識別ぐらいできないわけがないから、そうしようとしていないだけだ。
しかし人間が目で見て判断しているようでは、個人の能力や意図、疲れなどが結果に大きく影響してしまう。
しかもその前提として、できるだけがんだと判定しておくほうが、本物のがんを見逃すよりも後々問題になることが少ない。
そうなると、必然的にがんの誤診は増えてしまう。
もちろんがんの確実な判定方法が存在しない以上、誤診率の算定そのものも不可能だ。
仮に5年生存率から誤診率を差し引くとすると、愕然とするような数字になることは必至だろう。
もし確実にがんの判定をしようと思えば、そのがんが転移したかどうかを確認するしかない。
皮肉な話だが、がんが転移して初めて原発巣も100%がんだったと判定できるのだ。
しかし転移するのを待っていたら、手遅れになって患者はほぼ助からないと考えられている。
そのため、一旦がんだと診断された患者には、予め転移を想定した積極的な治療が行われる。
しかもこの積極的な治療のせいで、がんでもないのに死んでいく患者もいるというから切ない話だ。
それでは転移の話に戻ろう。
がんの転移の有無を重視している医師に、「がんもどき理論」で有名な元・慶應義塾大学医学部講師の近藤誠氏がいる。
彼の理論によると、がんにはもともと転移する能力のあるがんと、転移する能力のないがん(がんもどき)の2種類あるという。
転移能力のある本物のがんならば治療しても助からないし、がんもどきなら死ぬことはないので治療しても意味がないから、どちらの場合でもがんとは闘うべきではない、というのである。
詳しくは近藤誠氏の著書を参照いただきたいが、彼の説は、日本の従来のがん治療を真っ向から否定する内容だったので、医学界からは総攻撃を受け続けてきた。
しかし私の実感としては、ある意味、彼の話は正しいと思っている。
ただ問題なのは、本物のがんとがんもどきをどうやって識別するか、彼にはその判断基準がない点である。
このことが彼の理論のウィークポイントであり、攻撃の対象にもなっている。
近藤説では、がん細胞の転移能力の有無によってがんを2種類に分けている。
それに対して日本の医学界では、がんは2種類ではなく、個々の悪性度によって千差万別だと捉えている。
両者とも、転移はがん細胞のそれぞれの能力に起因すると考えている点では一致しているのだ。
ところが私は、全てのがん細胞には等しく転移能力があると考えている。
ある時点から急にがんの悪性度が高くなって転移し始めるなどという話は、私にはどうも腑に落ちない。
変化したのはがん細胞の能力ではなく、その環境ではないのか。
転移は、がん細胞が置かれている環境が変化した結果だと考えるのが妥当だ。
これはいわば、従来の転移能力説に対して、転移環境説なのである。
ではどの段階からがんの転移が始まるのか。
従来の医学では予想できないとされている。
これも個々のがん細胞の転移能力次第だというのだろう。
だが私は、がん細胞が分裂した当初から、転移はすでに始まっていると思う。
それならほとんどのがんは、血管やリンパ管を介してたちまち全身にくまなく転移することになる。
しかし現実には、転移するのは一部のがんである。
しかもある程度は、転移先の臓器も決まっているのだ。
また転移のタイミングも様々で、あっという間であったり数年先であったりする。
これらの矛盾をどのように解釈したらよいのだろうか。
そこで私は、がんの転移には背骨のズレによる血流の阻害が、大きな役割を果たしていると仮定してみた。
まず転移先の決定について考えてみよう。
これまでにも書いてきたように、がんは必ず背骨のズレによって圧迫された神経の支配領域に発現している。
また背骨のズレは神経を圧迫するだけでなく、血流も阻害する。
その血流が阻害されたところに、がんが転移しているのではないか。
つまりがんの発生だけでなく転移の場所についても、背骨のズレがその位置を決定していると考えることができるのだ。
次に転移のタイミングについて考えてみよう。
本来、血流に問題がなければ、がん細胞は血流に乗って全身をぐるぐると巡っている。
しかしいつまでも血流に留まることはできない。
いつしかマクロファージのような免疫細胞に捕食されてしまうのである。
だが背骨がズレると、そのズレによって血流の悪くなったところには、がん細胞が定着しやすくなる。
そこで初めてがんの転移が完了して、増殖を始めるのではないか。
要するに、体内環境にズレという条件が加わることによって、転移のタイミングに時間差が生じるのだ。
このように考えていくと、背骨のズレの有無が転移の有無の指標となり、いつどこに転移するかもだいたいの予測が立つ。
そもそも、がんはいつ転移・再発するかがわからないところに恐ろしさがある。
またがんによって悪性度に大きな違いがあることが、より一層不安をかき立てる。
しかし実際には、がん細胞にはそれほどの転移能力も、悪性度の違いもなさそうだ。
われわれの体内では、日々おびただしい数のがん細胞が転移を試みているが、成功するのはごくわずかである。
背骨のズレによる血流の阻害という環境があって初めて、がんは転移し得るのだから、常にズレのない状態にして、体内の血流環境さえ整えてやればよいのだ。
もちろんこれは単なる想像ではない。
これまで私が施術を通して、体験的に確信を深めてきた事実に、理論として裏付けをしたにすぎない。
今回の考察によって転移の謎が解けたことで、私のなかでもがんの輪郭が以前よりも明確になった。
このがんの転移環境説は、従来のがんのイメージを払拭する大発見なので、今後もさらに検証を重ねていくつもりである。
(花山 水清)