メールマガジン月刊ハナヤマ通信 362号 2016/12
先月、めまいの専門医である二木隆先生から、近著の『 臨床最前線で診るめまい 』(医学と看護社)という専門書をいただいた。
二木先生は最近は臨床からは少し離れておられるが、その間に今までの研究の集大成としてこの本をまとめ上げられたようだ。
本書には、既存の書籍と違ってめまいに関する論文が数多く盛り込まれている。
特に頚部痛とめまいとの関わりについて、深く掘り下げてあるところが興味深い。
二木先生のご専門は耳鼻科である。
通常の耳鼻科におけるめまいの研究であれば、それが耳鼻科の範囲から外れることはない。
それは他科の医師であっても同じことで、自分の専門領域を出て研究することはあまりないのである。
そのため研究の内容も、必然的に重箱の隅をつついたようなものになりがちだ。
ところが二木先生は、めまいの原因を頚椎ヘルニア、変形性頚椎症、ムチ打ち損傷など、専門分野の外にまで広げて追究しておられる。
これらの内容は、めまいに対する私のこれまでの考察を、さらに確信へと導いてくれるものだったのだ。
実は、めまいも頚椎ヘルニア・変形性頚椎症・ムチ打ち損傷による頚部痛も、ともに頭蓋・頚椎のズレが原因である。
このことから考えて、私も以前からめまいと頚部痛との関連性を疑っていたのだ。
先日も、朝起きたら首が痛くて食事もできないという高齢女性がいた。
この人は高齢者施設に入居中なので、施設の職員さんが整形外科に連れていこうとしていた。
しかし本人は、病院に行くよりも先に私に診てもらいたいといった。
そこで職員の方から私のところに連絡が来たのである。
この女性は今までにも何度も診ていたので、電話で症状を聞いただけで重大疾患でないことは十分に予測ができた。
みてみると、やはり彼女の首の痛みは単なる寝違え、すなわち頚椎のズレだった。
その前日に、首に負荷をかけるような体操を熱心にやりすぎたのが原因らしい。
寝違えとは、正式には頚椎捻挫(けいついねんざ)といい、筋肉痛の一種だと考えられている。
しかし実際には、頭蓋や頚椎の複合的なズレが原因なのだ。
だからそのズレさえ矯正すれば、寝違えによる痛みも解消してしまう。
ところが彼女の場合は、ズレ幅がかなり大きいうえ、首の痛みと同時に軽いめまいの症状まで出ていた。
そのような状態で、いきなりズレを戻すのは危険だ。
大きくズレている頭蓋や頚椎を、その場で一気に元の位置まで戻しきってしまうと、脳への血流が急激に変化する。
その結果、一時的にはめまいの症状を亢進させる危険性があるのだ。
そして最悪の場合、その血流の変化が脳梗塞の引き金にもなりかねないので、高齢者の扱いには特に注意が必要である。
しかしこの程度の症状なら、途中まで矯正しておくだけでも、数日後には気にならないレベルまで回復するはずだ。
ここであえて危険をおかす必要はない。
そう判断して、今回は症状が軽減する程度の矯正に留めた。
もちろんそのことを本人にも施設の職員の方にも説明しておいたところ、やはり数日で症状は消えたようだ。
さて今回の彼女の場合は、首の痛み(頚部痛)が主訴であり、めまいは付随的な症状であった。
逆にめまいが主訴で、同時に頚部痛を訴える人もいる。
どちらにしても頭蓋と頚椎のズレが原因である。
また頭蓋・頚椎がズレると、首の痛みとともに首の可動も悪くなる。
これが寝違えの症状となる。
これをもう少し詳しく見てみれば、頭蓋・頚椎のズレは首の左右にある頸動脈や椎骨動
脈に、機械的なダメージを与えていることがわかる。
椎骨動脈に対する刺激は、その先の脳底動脈にも影響を及ぼす。
また頸動脈や椎骨動脈は、脳へ血液を運ぶ最も重要な血管であるから、これらの血管に機械的な力が加わると、脳への血流が阻害されて脳は虚血状態に陥る。
これはいわば首を締められたのと同じ状態だから、めまいが出現するのだ。
このような病態を、医学的には一過性脳虚血発作ととらえることもある。
一過性脳虚血発作の原因は、検査してもわからないほど微小な血栓によるものだと考えられている。
そのため一過性脳虚血発作による高齢者のめまいは、脳梗塞の前触れだともいわれるのだ。
すると、めまいが頭蓋・頚椎のズレによるものであれば、同じズレによって起こる寝違えの首の痛みも、脳梗塞の前兆だと考えるべきではないか。
そもそも脳梗塞は、高血圧や糖尿病、高脂血症などといった生活習慣病による動脈硬化が最大の原因だとされている。
しかし私は、動脈硬化そのものも、背骨のズレによる機械的な刺激が根本原因であり、生活習慣病は二次的な要因にすぎないと考えている。
要するに寝違えなどを含めた頚部痛も、めまいも脳梗塞も、頭蓋・頚椎のズレによる一連の症状なのである。
しかもこれらの症状は、その発症時刻が共通している点も見逃せない。
まず寝違えといえば、たいてい朝の寝起きに起こるものだ。
めまいも、朝、寝床から起き上がろうとしたら天井が回っていたという例が多い。
そして脳梗塞の発症も、やはり夜間から早朝にかけての時間帯に集中している。
これらは、たまたま発症時刻が似ているのではない。
全て、頭蓋・頚椎のズレという原因そのものが共通しているからなのだ。
そう考える根拠となっているのが、背骨のズレと自律神経の働きとの関係である。
眠りから覚めるとき、自律神経は副交感神経から交感神経に切り替わる。
また椎骨動脈の血流は、交感神経のみによって調整されている。
そして背骨のズレは、交感神経の機能を亢進させる作用をもつのである。
これらの事実を重ね合わせると、寝違え(頚部痛)、めまい、脳梗塞の発症時刻が共通している理由も、背骨のズレによって引き起こされた交感神経の機能亢進が深く関わっているからだとわかるのだ。
この仕組みについてはさらにしっかりと考察したいところだが、医学的にも早急に検証されるべきだろう。
しかし現在は、医学界でも一般でも、頚部痛とめまいと脳梗塞は別の病態としか考えられていない。
そのため、それぞれの症状で受診する科さえ違うのが常識だ。
だがそこに背骨のズレという要素を加えて考察し直せば、既存の常識などあっという間にくつがえる。
医学の世界では、従来の常識を疑うことは好まれないが、常識をくつがえす視点なくして医学の進歩など望めまい。
頚部痛にしても、それが脳梗塞の前兆であるのなら、早期の段階で発症に気づけるかどうかは重大問題だ。
脳梗塞というのは、発症から数時間で治療が開始できるかどうかで明暗が大きく分かれ、その後の人生は天と地ほども違うものになる。
高齢になるとだれでもあちこち痛いものではあるが、首の場合だけは「たかが寝違え」と侮ってはならない。
これだけは、銘記しておいていただきたいのである。
(花山 水清)
『 臨床最前線で診るめまい 』二木隆 著