花山 水清
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医学を内包した美術が左右非対称な体から病気を消す

メールマガジン月刊ハナヤマ通信  361号 2016/11 

 

 先月、武蔵野美術大学の関野吉晴教授に招かれて大学で講演をさせていただいた。

 

関野先生はテレビ番組の「グレートジャーニー」シリーズでおなじみの探検家であり、医師でもあり、モルフォセラピーのよき理解者であり実践者でもある。


この講演は、先生の研究室が主催する「地球永住計画」の連続講座の一貫として行われたもので、私には「美術と医学」というテーマが与えられていた。


そこで今日は、いつもとは少し違った角度から医学と美術の話を書いてみようと思う。

 

 

 医学と美術というのは、対比して語られることの多いテーマである。

 

しかし医師が語るときには医学に、美術家が語るときには美術に偏ることが多いため、真の意味で両者が交わることはない。


また一般的には、医学は唯物論、美術は観念論的なイメージが強いだろう。


そこで今回は逆に、美術を唯物論的な見方で捉えて、医学との接点を考察してみたい。

 


 医学と美術の接点といえば、レオナルド・ダ・ヴィンチ(1452-1519)が描いた解剖図を思い出す。


解剖図はいわば人体の地図である。

 

医学の進歩は、解剖図の完成から始まったといえるほど重要な存在だ。


正確な地図がなければ目的地にたどり着くことが難しいように、正しい解剖図なしでは、まともな医療など期待することすら難しかった。

正確な解剖図の出現は、ヴェサリウス(1514-1564)の『ファブリカ』から始まったといわれる。


『ファブリカ』は、ルネサンスを代表する画家ティツィアーノの弟子によって描かれた。

 

この『ファブリカ』の完成に貢献したのが、美術における遠近法や透視図法の発見だったのだ。

 

 だがこれは、たまたま医学と美術が結びついた一瞬に過ぎない。


解剖図の完成によって、ルネサンスのような新しい美術の流れが生まれたわけではない。

 

美術によって、病気の画期的な治療法が発見されたわけでもない。


ダ・ヴィンチにしても解剖図は描いたが、実際に病人を治療したという話は聞かない。


どの時代を見ても、美術家はモチーフとして病人を扱うことはあっても、美術を基にして具体的に医療そのものに関わった例はないのだ。

 

 

 全く異なるジャンルから医療に関わったのは、床屋ぐらいなものである。

 

16世紀のヨーロッパでは、医療の主流は内科的治療であり、外科的な治療は床屋がやっていた。

 

職業柄、床屋は人の体や刃物に触れる機会が多いからだったが、外科的治療といっても期待されるのがその程度の内容だったということだ。

 

 実は美術家として医学に関わった人間といえば、歴史上では私が最初である。


以前、知り合いのイカ釣り漁師が「オレは世界で初めてLEDを使ってイカ釣りをした男だ」と自慢していた。

 

LEDの照明では思ったほどイカが集まらなかったそうだが、話としてはおもしろい。

 

そこで私も、胸を張って「世界初だ」と宣言しておく。



 もちろん現代では、病気治療の専門家といえば医師であることはまちがいない。

 

だが治療の専門家が医師であっても、治療を受けるのは患者である。


従って最終的に治療の責任を負うのも医師ではなく、その治療を選択した患者本人なのである。

 

ところが病気に関することは、すべて医師に任せ切って、その責任から逃れようとする人が多い。

 

自分の生死に関わる状況であっても、依然として医学の素人のまま、部外者のままであろうとするのだ。



 だが医学は医師だけの所有物ではない。


まして病気については、だれもが当事者となり得るのだから、だれが研究してもよいはずだ。


だれであっても、それぞれが何らかの形で人体のスペシャリストにはなれる。

 

当然、美術家もその例外ではないのだ。

 

ダ・ヴィンチにしても、医師をはるかに上回る観察眼と卓越した技法によって、解剖図を描いてみせた。

 


 ここで知っておいてほしいのは、医学は皆が期待しているほどには進歩していないという事実である。

 

毎日のように最先端医学がニュースにはなるが、それはごく一部の、研究室内での話であって医療の現場まで届いていない。

 

夢のような進歩の話が、夢のまま実現しないこともかなり多い。

 

今現在も、病院で治せる病気というのはそれほど多くはないのだ。


そのため、医学に対する過剰な期待は、往々にして「こんなはずではなかった」という結果に終わる。

 


 たとえば病院では、体の異常を主に画像と数値に置き換えて診断する。


デジタル化することで客観性を持たせるわけだが、現行の検査方法は発展途上であり、完成された技術とはいえない。

 

その証拠に、患者本人が不調を訴えているのに、検査では「異常なし」と診断される例が無数に存在するのである。


しかも、検査で原因が特定できなかった体の異常の多くが、「気のせいだ」とか「心の問題だ」といって処理されている。

 

これはたいへん異常なことなのだ。


機械論でその地位を築いてきたはずの現代医学が、生気論の時代に逆戻りしているようなものである。

 

現代医学の、科学としての正当性すら否定することになるのだから、医学史上、由々しき事態だ。

 


 ところが医学では判断のつかなった体の異常に対して、美術の世界には唯物論として絶対的な基準が存在する。


その基準となっているのが、美だ。


美に対する認識は、人によって判断の基準が異なると考えられているが、古代エジプトやギリシア、ローマでは、左右対称こそが美の基準であった。

 

そのため人体を模した当時の彫刻は、すべて左右対称(シンメトリ)に表現されている。


またシンメトリであるか否かは、生物学でも脊椎動物すべての基準となっている。

 

つまりこれが、唯物論としての美の基準なのだ。

 


 医学と違って、この基準は時代に左右されることがなく不変である。


この基準に照らせば、人体にはシンメトリな美しい体と、アシンメトリ(左右非対称)で美から逸脱した体の2種類しか存在しないことになる。


そして、人体の美への回帰、すなわち非対称な体を左右対称に戻すことで人体から病気をなくす、それがモルフォセラピーだ。

 

つまりモルフォセラピーとは、単なる医学と美術の接点に留まらず、美術本来の役割を担うものであり、その可能性を最大限に具現化したものでもある。


そしてだれもが、もちろん医師すらも美術家として究極の美を求めることができる。

 


 これまで医学と美術は全く違った領域であり、美術は医学ほど明確な目的を持たないと考えられてきた。


しかし美術の本来の目的は、領域そのものを創り出すことなのである。


そう考えれば、医学と美術は対峙するものでもなければ、融合するものでもない。

 

医学は美術に内包されるべき存在だったことがわかるだろう。

 

 

 かつて天才ダ・ヴィンチの手によって、美術は医学の流れを変えた。

 

だが医学が美術の流れを変えた例はない。

 

この事実からも、両者の関係性が見て取れる。


すると私がやってきたことも医学への挑戦ではなかったのだ。


私が美術家として医学の領域に踏み込んだことは、美術の領域を再認識させるためであり、実は美術界への挑戦だったのである。

(花山 水清)

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