メールマガジン月刊ハナヤマ通信 356号 2016/06
おかげさまで当メールマガジンは、今回の配信で14年目に突入した。
私は「腰痛とがんは家庭で治す病気にする」を目標にしてきた。
腰痛に関してはすでに達成しているが、最終目標であるがんについてはまだ到達できていなかった。
ところが先日開催された勉強会で、モルフォセラピーの指導者の一人から、最終目標の達成を予感させる報告を受けた。
彼は全身転移の末期の肺がん患者を、モルフォセラピーで生還させたというのだ。
患者の家族に頼まれて、彼が施術することになったとき、患者はすでに病院での治療手段が尽きて余命宣告を受けたあと、自宅に帰されていた。
最初に見たときの患者の体は、側弯症かと思うほど激しいアシンメトリ現象と、固くこわばった骨格筋の緊張が印象的だったようだ。
しかし施術するたびに骨格筋の緊張は解け、ついに検査上ではがんが消失するまでに回復した。
その結果、彼は患者の家族から神様扱いされて恐縮しているという話だった。
確かに、がん患者の骨格筋の緊張は独特だ。
また、施術によってがんが消えるときの骨格筋のゆるみ方も特徴的なのである。
私は状況的に見て、彼のモルフォセラピーの手技が功を奏したと考える。
もちろんこの一例だけで、肺がんが治ったと喧伝するわけにはいかないだろう。
そこで彼の施術でがんが消えたと仮定して、その可能性を推論してみよう。
まず、私がモルフォセラピーでもっとも重視しているのは、「治った」という結果ではない。
「なぜ治ったか」の具体的で理論的な説明なのである。
今までにも、モルフォセラピーでがんが消えたと感じたことはあったが、肝心の「なぜそうなるのか」という理論の組み立てが完成していなかったのだ。
そもそも、なぜ正常な細胞ががん化してしまうのか。
それすら医学的には解明されていない。
原因の筆頭に挙げられる発がん物質にしても、なぜ発がん物質等によって、正常細胞が未分化状態になるのかわかっていないのだ。
発がんの根本原因すらわからないのに、がんが治ることの証明などできるわけがなかった。
ところがひょんなことから、がんの発生と消去について、私のなかでその理由を説明できる可能性が出てきた。
そのきっかけとなったのが、2016年3月に医学誌で発表された、2型糖尿病の新しい発症メカニズムに関しての研究なのである。
2型糖尿病とは、インスリンの分泌低下もしくは感受性低下によって、血液中のブドウ糖を細胞に取り込めなくなることで血糖値が上昇してしまう病気だ。
血糖値が上昇した状態が続くと血管や神経が傷害されて、さまざまな合併症が引き起こされる。
日本人の糖尿病患者の9割以上がこの2型糖尿病だといわれるが、発症の根本原因まではわかっていなかった。
それが最近、その原因として全く新たな考え方が見つかって、研究が進んでいるというのだ。
インスリンというのは、血糖値を下げるために膵臓(すいぞう)のβ細胞(ベータさいぼう)から分泌されるホルモンである。
それと同時に、膵臓のα細胞(アルファさいぼう)からは、血糖値を上げるためにグルカゴンというホルモンが分泌されている。
そのそれぞれの分泌量は、交感神経の働きによって調節されているのである。
ところがこの最新の研究では、2型糖尿病では膵臓のβ細胞が脱分化してα細胞に変化し、インスリンではなくグルカゴンを分泌するようになっていることが確認された。
糖尿病の原因に、脱分化が関与していたという発見はたいへんな驚きだ。
そうなると今後は、糖尿病における血糖値上昇の問題は、インスリンではなくグルカゴンが対象になっていくことになる。
そういえば知り合いの糖尿病専門医が、今まで診た入院患者で「おかげさまで完治しました」といって退院した人はいないと嘆いていたことがあった。
しかし脱分化が関係しているとなれば、近い将来、糖尿病の治療法も一変し、飛躍的な進歩が望めそうだ。
さてここで脱分化についても、少し説明しておこう。
通常、細胞は幹細胞から体細胞へと分化する。
そして一旦、分化した細胞は、ずっとそのままで他の細胞に変化することはないと考えられていた。
ところが脱分化というのは、体細胞から幹細胞へと未分化な状態に逆戻りしてしまう現象だ。
これはいわば細胞の初期化のようなものであり、それを人工的に行ったのが、あの有名なiPS細胞である。
ではなぜ膵臓のβ細胞が脱分化して、α細胞に変化するのだろうか。
その理由までは最新の研究でもわかっていない。
実は脱分化というのは、正常細胞ががん細胞に変化するのと同じしくみでもある。
がん細胞とは、何らかの理由で脱分化した未分化細胞が、自律的に過剰に増殖したものなのだ。
そのためiPS細胞の研究においても、いかに細胞のがん化を防ぐかが最大の課題となっている。
また、糖尿病はがんの重要な危険因子であるといわれてきた。
男性では肝がん、腎臓がん、膵がん、結腸がん、胃がん、女性では胃がん、肝がん、卵巣がんでその傾向が強い。
これを見れば、糖尿病とがんとの間に大きな関わりがあることがわかる。
だが本当に糖尿病が発がんの危険因子なのだろうか。
両者は同じ理由で発症しているだけではないのか。
実際、2型糖尿病でβ細胞が脱分化してα細胞化することと同様、正常細胞が脱分化してがん細胞になるしくみについても、いまだに解明されていない。
そこで2型糖尿病もがんも、ともに脱分化が発症のカギとなっていることから見て、私は交感神経の機能低下が脱分化の大きな要因ではないかと考える。
そしてその、交感神経の働きを阻害する最大の原因は背骨のズレなのである。
前述のモルフォセラピー指導者の話に登場した、末期の肺がん患者の骨格筋が異常にこわばっていたことを思い出していただきたい。
これは明らかに、交感神経の過度な緊張状態である。
背骨のズレを矯正したら、その交感神経の緊張がゆるみ、それと同時に患者の体はがんから開放された。
そう考えられる。
要するに背骨のズレが原因で、交感神経の機能低下が起こり、脱分化が始まるのであれば、背骨のズレを消去することで脱分化のスイッチがオフになる。
そう考えていくと、2型糖尿病やがんの治癒のメカニズムも、脱分化の原因を取り除けば逆分化が起こるという、きわめて単純なストーリーだ。
もちろんこの推論は私の想像の域を出ていない。
だが、がんや糖尿病だけでなく他の多くの疾患についても、従来の医学では単なる状況説明を繰り返すだけで、原因に対しての論理的な説明がない。
そのせいで、根本原因にアプローチするような、決定的な治療法もほとんど存在しないのだ。
それが今回たとえ一例であったとしても、末期がん患者が生還したという事実は、十分に科学的に検証される価値があるだろう。
ましてがん患者への施術に挑戦した彼は、もともと治療家として実力はあっても、モルフォセラピーの施術キャリアは2年にも満たない。
これなら「がんを家庭で治す」という目標の実現も、今後は大いに期待できると思うのである。
(花山 水清)