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自己責任の社会では、医療情報も災害情報もまずは真偽を疑うべし

メールマガジン月刊ハナヤマ通信 355号 2016/05 

 

 先日、ある70代の女性Aさんは、私の顔を見るなり「先生、聞いてよ!」とクラス会でのできごとを話し始めた。


参加者10人程での食事を終えると、Aさん以外の全員がバッグの中から薬やサプリメントを取り出して飲み始めたのだ。


Aさんは食後に飲むものなど何もないので手持ち無沙汰にしていると、見かねた友人の一人が「これを飲みなさい」とサプリメントを手渡した。

 

Aさんが「そういうものは飲まないことにしている」と断ると、その友人は「あなた、もっと健康に気を使わなければダメよ」と強い調子で説教を始めたのだ。


反論しようにも多勢に無勢である。

 

Aさんはその場での反論はあきらめたが、納得がいかなくて憤慨しておられた。

 

Aさんのいうには、彼女らはあれだけ大量の薬やサプリメントを飲んでおきながら、しょっちゅう体調を崩しては病院通いをしている。


またインフルエンザの予防接種を受けているのに、毎年のようにインフルエンザにもかかっている。

 

 そもそも大抵の人にとって、健康情報を得る目的は健康になりたいからだろう。


しかしサプリメントとなると、情報を提供する側の目的は、そのサプリメントを買う人の健康よりも自分の利益であることはいうまでもない。


確かに人間の数ある欲求のうちでも、健康への欲求は根源的なものだし、何かを買いたいという消費の欲求もかなり根深い。


この2つの欲求が重なると、欲求がさらに強化された状態になる。


そのためサプリメントのような商品は、圧倒的多数からの絶大な支持を得ている。

 

それがクラス会でAさんを圧倒したマジョリティのパワーなのだ。

 

彼女たちに向かって「健康情報の真偽を疑え」などと説くことは、ナンセンスかもしれない。

 

もちろんどんな薬やサプリメントを飲もうが、何回インフルエンザの予防接種を受けようが個人の自由である。


だが多くの人は、その自由に伴う責任の重大性をあまり認識できていない。

 

 以前、インフルエンザ・ワクチンの集団接種が強制されていた時期があった。

 

ところがそのワクチンの副作用によって、重篤な症状の患者が大勢出現した。


その患者たちが国を相手取って損害賠償訴訟の裁判を起こし、国が敗訴した。

 

その結果、それ以後はインフルエンザの予防接種は強制ではなく、希望者が自己責任において任意で接種することになったのだ。

 

 

 この考え方は、テレビなどの健康情報をどう取り入れるかについても、基本は同じである。

 

そもそもテレビで放送される健康情報など、ガマの油売りと同じで娯楽なのだ。

 

だから、情報を信じようが信じまいがお好きにどうぞとしかいいようがない。

 

 

 ところがこれが医療情報となると、ことの真偽は看過できるものではない。

  
この前も、ある医師が書いた大学病院の批判本を読んでいて愕然とした。


その挑発的な題名とは裏腹に、大学病院を擁護しているともとれる内容だった。


本人としては精一杯、大学病院を批判しているつもりなのに、逆に医者としての常識が世間一般とかけ離れていることを露呈してしまっている。
  

 

 たとえば、ある大学病院が世間を騒がせた事件について触れた部分がある。

 

当時の新聞が、「大学病院の信頼を取り戻すには、徹底した情報開示が求められる」とコメントしていたことを取り上げて、

 

「ほんとうの情報など公開したら、医療がいかに危険で信頼できないかが明らかになってしまう」

 

といって、新聞のほうを批判しているのだ。


さらに、「情報公開すると治らないのが(患者に)わかって混乱が生じる」とまで書いていた。

 

こんな話は耐震偽装や談合と同じで、決して公言することではない。


それを隠そうともしないどころか、「たとえ幻想であっても大学病院への信頼を維持しておくことは必要だ」と続くのだから恐れ入る。

 

 
 問題はそれだけではない。


その「危険で信頼できない医療」にかかれば、必ず被害者が出るという当然の結果を彼が知らないはずがない。

 

その危険性を知っていながら、患者の被害など全く意に介していないのだ。


では、これが医者の共通認識なのだろうか。

 

仮にそうだとしたら、われわれはとんでもない人たちに命を預けてきたことになる。

 

 

 この本はそこそこ売れたようなのに、なぜ内容が問題にならないのか不思議だ。
 
しかしこれでよくわかった。

 

世間には知らなくてよい情報はあふれ返っているが、知っておかなくてはならない情報は伏せられるのだ。


最近の例でいえば、「原発爆発の前夜10時には、原発周囲 3km以内に避難指示が出ていた」という事実を、私は『 精神医療に葬られた人々 』 (光文社新書)という本で知った。


前夜の時点で爆発の可能性があることを知っていながら、一般国民に知らせると「混乱が生じる」という理由で伏せられていたわけだ。

 


 まして今の日本は、さらに国民に情報を公開しない体制が強化されている。


先ごろ発表された、国境なき記者団による「報道の自由度」ランキングでも、日本は2010年には11位だったものが、今年(2016年)は72位にまで転落している。


自由度が下がったということは、報道が規制されているという意味である。


だが、知られて都合が悪いことは、たいていはわれわれが最も知るべき情報なのだ。



 ただし何よりも問題なのは、情報を受け取る側にその情報の真偽を判断する能力がない場合だろう。


自分で思考せず、テレビや新聞の情報をそのまま鵜呑みにしていると、かんたんに洗脳される。

 

 

そうなれば、情報を発信する側の意のままだ。

 


 また現代のような情報過多の社会では、真偽を確かめるために必要な情報が、相対的に乏しくなっている。


悪貨が良貨を駆逐するという言葉の通り、一旦は量で圧倒して社会通念と化した情報は、まちがっていても常識として生き残り続ける。


あとになって正しい情報が流されても、それは情報の海に落ちた砂粒にすぎない。

 

だれもその存在に気づかないまま、数十年が過ぎてしまうことも珍しくはないのだ。

 

「漢方薬には副作用がない」というデマにしても、いまだに信じている人がいるのがいい例だろう。


特に医療や災害の情報は、即、生死に関わる問題となる。


これからの時代は、情報の真偽だけでも常に意識してほしいと思うのだ。

(花山 水清)

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