メールマガジン月刊ハナヤマ通信 350号 2015/12
近ごろは、なかなか妊娠できなくて病院で不妊治療を受けている人が多いようだ。
治療のおかげで子どもを授かる人もいれば、何回治療を受けてもダメだったという人もいる。
不妊治療というのは、かなりの費用と時間を要するだけでなく、心身に激しい苦痛を伴うものであるらしいから同情を禁じ得ない。
先日、モルフォセラピーを実践している施術者から興味深い話を聞いた。
以前から診ていた患者さんが、「おかげさまで妊娠できました」とお礼をいってくれたのだという。
彼は施術者として背骨のズレによる症状には対処したが、不妊まで治したつもりはないので、患者さんにもそのように伝えたらしい。
そして、実際のところ背骨のズレと不妊とは関係があるのでしょうか、という質問だった。
同様の話は、他の施術者からも聞いたことがある。
私にも何度も経験がある。
背骨のズレと不妊との間に因果関係があるのかといえば、私はあり得ることだと考えている。
腰椎や骨盤のズレを矯正した結果、婦人科系疾患の症状が改善する例はとても多い。
腰椎や骨盤のズレが、子宮や卵巣などに対して何らかの機械的な力を加えていたのだろう。
ズレによって子宮や卵巣、卵管が引きつったり血行不良に陥ったりしていれば、それが結果として不妊の原因になるのかもしれない。
それらの背骨のズレを矯正して、生殖器官の本来の機能が正常に働くようになれば、排卵・受精・着床がスムーズに行われるのは当然だろう。
確かに、ほとんどズレがなくて「アシンメトリ現象」のない左右対称な体の人は、妊娠・出産も順調なようだ。
健康体の見本のような、ある30代の女性も、結婚後すんなり妊娠した。
初産にもかかわらず、陣痛すら体験せずに出産できたのである。
もちろん、私の立場では背骨のズレと不妊に因果関係があるとは断定できない。
しかし不妊で病院の治療を受けているぐらいなら、試しに背骨のズレを矯正してみるのはおすすめできる。
ただしモルフォセラピー協会では、妊婦に対しては一切の施術を行わないように指導している。
妊娠中に施術を受けることで、どのような結果が生じるか予測できないからだ。
かなりの施術効果が見込める反面、不利益を与えることもないとはいいきれない。
特に、胎児に何らかの影響を与えることも想定される。
モルフォセラピーに限らず、医師の管理下でなければ、外部から刺激を受けることは控えるべきだろう。
妊婦のなかには、原因不明の流産を繰り返す人もいる。
妊娠中に施術を受けた人が流産した時点で医者に相談すれば、全く根拠がなくても施術のせいにされる危険性がある。
施術者の側には、妊娠に悪影響がないと証明する手段がない以上、「妊婦の体には絶対に触れるな」「妊婦は人に体を触らせるな」というしかないのである。
とはいえ、妊娠中に腰痛で苦しむ人もかなりの数に上る。
妊娠中であっても腰痛の原因は背骨のズレだから、矯正すれば解消する。
私も矯正のご要望をいただくことは多い。
そのような場合でも、私自身は妊婦さんの体幹部には手を触れないで、本人の手でズレを戻してもらうようにしている。
患者自身が自分でも矯正できるのが、モルフォセラピーの利点でもある。
協会では自分で矯正するこのセルフセラピーの指導もしているので、妊娠する前から練習しておいていただければベストだろう。
また妊娠・出産がうまくいったとしても、産後にもトラブルはつきものだ。
その代表が授乳に関する問題である。
母乳の出の良し悪しは、日々の健康状態はもちろんだが、ある程度は体質的な部分にも左右されるようだ。
そこで授乳時に、助産婦さんによる乳房のマッサージ(いわゆる「おっぱいマッサージ」)を受ける人もいる。
助産婦さんたちは乳房をマッサージすることで母乳の出を良くしたり、乳腺炎の解消を行ったりする。
しかしいくら経験豊富な助産婦さんでも、手に負えないような乳腺炎もある。
丹念にマッサージをしても、何度も乳腺炎が再発してしまうのだ。
そのような乳腺炎の患者さんが、私のところに来院されることがある。
体を診てみると、みな乳房だけでなく胸筋もしっかりと固くなっている。
その原因となっているのが胸椎のズレなのだ。
背骨がズレると、そのズレた部分で血流が悪くなる。
それが胸椎なら、必然的に母乳の出も悪くなってしまう。
だから胸椎のズレを戻すと胸筋がゆるみ、乳房も柔らなくなって母乳が出やすくなるから、乳腺炎も起こりにくくなるのである。
妊娠・出産・授乳は、ホルモンを介して、女性の体にめまぐるしい変化をもたらす。
それらに伴って、体にはさまざまな不調が現れることも多い。
一般的には、妊娠、出産、授乳だけでも大変なのだから、体調が悪くなるのも仕方がないし、そういうものだと思われている。
ところがその不調の多くが、実は背骨のズレが原因で発生しているのだ。
このように書くとまた「何でもかんでも骨のズレか」といわれそうだが、私としては、私の知り得る限りの事実を書き残しておきたいだけである。
ズレは万病の元などというつもりがないことは、本にも書いた通りだ。
また、子どもをつくることはこの世に生まれてきた大きな目的の一つであり、子孫繁栄は人類共通の願いでもあろう。
だからこそ、旧石器のころにはわずか5千程度だった日本の人口も、今や1億2千万を超しているわけだ。
しかし意図する・しないにかかわらず、私を含めて私のまわりには子どもがいない人が多い。
もちろん不妊治療に励んでいる人たちが抱いている「どうしても子どもが欲しい」という気持ちも理解はできる。
だがこの世には、「子どものいない人生」という選択肢があること、それは決して不幸ではないことも、頭の片隅に置いておいていただければと思っている。
(花山水清)