メールマガジン月刊ハナヤマ通信 339号 2015/01
離れて暮らしている母が去年の6月に脳梗塞(のうこうそく)を発症した。
そのとき母は、同じマンションの知人の家でおしゃべりしている最中だった。
母の顔色がバッと赤くなったのを見て、そこの家のご主人が異変を察知し、近所の方と連携して救急車の手配をしてくださった。
おかげで大事には至らなかったが、脳卒中はいかに早く治療がスタートできるかが肝心だ。
放置すれば死に至ることも多いし、処置までに時間がかかるほど後遺症がひどくなる。
母の場合は、脳梗塞を体験していた近所の方が正しい判断をしてくださったから助かった。
あのとき「部屋に帰って休むように」などといわれていたら、どうなっていたかわからない。
実際、母と同室に入院していた50代の女性は、脳梗塞の発症を単なる疲れだと判断した。
そして一晩寝ている間に症状が進行したため、半身麻痺でかなりきつい後遺症が出ていた。
まさに脳卒中に対する知識の有無が運命の分かれ道だったのだ。
後日、母に聞いてみると、救急車に乗せられて入院するまでの記憶はないが、おしゃべりしている最中に、頭のなかでカラカラと何かが落ちるような音がしたという。
本当に何かが落ちたわけではないだろうから、発症時の脳内の急激な変化が聴覚として感知されて、そういう音が聞こえた(ような気がした)のだろう。
それはそれで興味深い。
その後、母は脳梗塞の再発防止のため、抗凝血剤を常時服用することになった。
薬が効き過ぎると危険なので、薬の効きを検査するために定期的に脳外科を受診する。
しかし病院というところは、まめに通えば通うほどもらう薬の種類が増えていく。
高齢者にとっては、何種類もの薬を管理するのは難しいことである。
特に抗凝血剤の場合は、飲み忘れると脳梗塞の再発の危険があるばかりでなく、飲んだことを忘れて再度飲んでしまうと、今度は脳出血の恐れもあるから厄介だ。
他の薬との相性が悪い場合も多いので、服薬にはさらに慎重になる必要がある。
にもかかわらず、大多数の医師は自分が処方した薬以外に、患者が他科でどのような薬を処方されているかなど全く気にしていない。
ひどい場合になると、すでに脳外科で抗凝血剤を処方されているのに、主治医に確認もしないでダブルで処方する他科の医師もいた。
母の場合もダブルでワーファリンが処方されていたのを、本人が気づいたからよかったが、お薬手帳だって役に立っていなかったのだ。
私はこれまでにも何回か母の通院に付き添ったことがある。
地元の商店街はさびれ切っているのに、病院のなかだけはどこにこんなに人がいるのだと思うほど患者でごった返している。
受付をしてから、検査、診察、会計を済ませ、薬をもらって帰るまでに、だいたいいつも3時間以上かかる。
あっちへ行け、こっちへ来いといわれて、あちこち回っての3時間なのだから、健康でなければ、とてもこなせるものではない。
病院好きの母は、一人でも週に1回以上はあちこちの病院を回っていたようなので、それはそれでいい運動になったことだろう。
そんな母が、あるとき腰が痛いといいだした。
以前から腰だけでなく、頭だの胸だの膝だのとしゅっちゅうあちこち痛みを訴えていた。
冷たいようだが、私は高齢者の体の不調にはあまり真剣に耳を貸さない。
だれだって年をとれば、体のどこかに一つや二つ調子が悪いところがあるのは当たり前だからである。
もちろん、そういった体の不調をただ我慢しろといっているのではない。
そういう不調はだいたいが背骨のズレが原因だから、ズレを戻せばいいだけだ。
母の腰痛にしても背骨のズレが原因だったから、その場でズレを戻したらおさまった。
しかしその2日後に、今度はお腹が痛いといい始めた。
病院で検査を受けたそうなそぶりを示すが、表情を見ればどの程度の痛みかはよくわかる。
脂汗をかいてのたうち回るほどなら、胆石や膵炎(すいえん)、潰瘍(かいよう)などの内臓疾患が想定されるが、それほどの痛みではなさそうだ。
常に痛いわけではなく、体をちょっと動かしたときにピッと痛みが出る程度だから、これも単なる腰椎のズレが原因だろう。
背中に回って腰椎を調べてみると、明らかに痛みに呼応した位置の腰椎がズレている。
試しにそのズレた部分に指を当てると、痛みがお腹に響くという。
これで、腰椎のズレと腹部の痛みの因果関係がはっきりしたので矯正した。
今回は、腰椎のズレが腰痛だけでなく腹痛も引き起こしていたのだ。
こういう症例は非常によくある。
さて、そのズレを矯正した途端、母は何事もなかったかのように元気におやつを食べ始めた。
わが家ではいつも通りのいたって簡単なやりとりだ。
しかし背骨のズレという現象を知らなければこうはいかない。
腰が痛ければ整形外科を受診し、お腹が痛ければ消化器科を受診することになる。
消化器科では、下手をすれば内視鏡検査だろう。
内視鏡で検査をすれば、消化管を傷つけるリスクが生じる。
そうなれば、抗凝血剤を服用しているから出血が止まらずに、生死をさまようことにもなりかねない。
またこういった痛みは、どんなに検査をしても特別な異常があるわけではないから、適当に消炎鎮痛剤を処方される。
ところがほとんどの消炎鎮痛剤はワーファリンなどの抗凝血剤と併用すると、脳出血や消化管出血、脳塞栓などのリスクがある。
そうなると、そこらで売っている鎮痛剤を買ってきて、気楽に痛みを止めるわけにはいかない。
「我慢して寝る」以外にすべがない。
そもそも脳外科を定期的に受診するだけでも大変なのに、さらに2科を受診するとなると、とんでもない労力だ。
その受診に家族が付き添うとなれば、勤め人なら会社を休むことにもなる。
しかも、受診したからといって主訴たる痛みが消えないのだから、本人も家族もなおさらつらい。
単に背骨のズレを戻せばよいだけのことが、とんだ大ごとになってしまう。
それを避けるためにも、ズレをかんたんに戻せる「モルフォセラピー」を、一般の家庭に普及させたいと思っているのだ。
腰痛などのごく日常的な症状を家族の手でケアできれば、わざわざ病院に行く必要がなくなる。
あちこち痛いという高齢者がその度に病院に通いつめる必要もない。
その代わりに地元の商店街でも歩きまわるようになれば、地域経済の活性化にも貢献できるだろう。
もちろん腰痛やひざ痛の子供も増えているのだから、これは高齢者に限った話ではない。
家族の健康は何よりの喜びだ。
そのためには、モルフォセラピーが最も役に立つと私は確信しているのである。
(花山 水清)