花山 水清
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和魂洋才が日本の自然科学の弱点

メールマガジン月刊ハナヤマ通信 Vol.328 2014/02

 

 解剖学者の三木成夫の著書を読んでいると、彼が東洋思想である漢方医学に傾倒していたことがよくわかる。

 

三木だけでなく、日本の自然科学の研究者達の本には、鈴木大拙の禅などのような東洋思想からの引用が目立つ。

 

片や欧米の研究者の本には、聖書やギリシャ神話はもちろん、フレーザーやエリアーデなどからの引用が多い。

 

自然科学の歴史を振り返れば、そういった引用は至極もっともなことだ。

 

それが日本人となると、なぜ自然科学に東洋思想を結び付けたがるのだろうか。

 

そこにどのような意味があるというのか。

 

 

 たとえば自然科学と東洋思想の代表的な対比として、西洋医学と東洋医学がある。 

 

西洋医学一辺倒ではなく、西洋医学に東洋医学の良いところを合わせれば、より良い医学ができあがる、などともっともらしい話をする人も多い。

 

彼らは、かつて東西の文化が融合することでヘレニズム文化ができあがったような、都合の良いイメージを抱いているらしい。

 

 

 しかし多くの人の意に反して、東西の医学というのは次元が全く違うカテゴリーに属しているのである。

 

両者とも同じく医学を標榜してはいるが、似て非なるものなのだ。

 

強いて言えば、天文学と占星術の関係に似ているだろうか。

 

天文学も占星術も星を扱ってはいても、天文学に星占いの要素を加えたところで、天文学が飛躍的に進歩するわけがない。

 

同様に、西洋医学に次元の違う東洋医学を合わせてみたところで、進歩など期待できないのである。

 

 

 そもそも私の手元の辞書には、東洋医学や漢方という言葉はあっても、西洋医学や現代医学という言葉は載っていない。

 

医学といえば、当然、西洋医学であり現代医学しかないから、あえてその項目は不要ということか。

 

要するに、言葉のうえでも東洋医学は医学には含まれていないわけである。

 

 

 ではなぜ、三木成夫のような自然科学の研究者が、漢方医学にこだわるのだろう。 

 

確かに、明治の頃の医学者たちは、皆、漢文に精通していた。

 

その影響で、東洋思想に造詣が深いことが、知識人の証のような風潮があった。

 

しかしそれでは西洋の自然科学と、日本の自然科学は全く別物になってしまう。

 

 

 実は明治以降の日本において、自然科学の研究者の最大の弱点は、背景となる西洋思想を理解していないことにある。

 

明治期に入って、日本は文明開化で西洋文明を取り入れた。

 

その際、和魂洋才と称して、西洋文明の基盤となっているキリスト教を始めとする、思想的背景を全て排除した状態で、表面の技術だけを取り入れたのだ。

 

そればかりか、当時の日本人にとってアイデンティティとなっていたはずの、仏教までも切り捨ててしまった。

 

その結果、日本の科学者達は、表面だけを学んで良しとする傾向が強くなった。

 

それでも日本の自然科学は世界最高水準にまで成長できた。

 

しかし思想的背景を学んでこなかったことが、今の日本人にとって致命的な欠陥となっている。

 

「何のため」という研究の目的が明確にされないから、いざという時に立ち返るべき原点がないのだ。

 

 

 歴史を見ればわかるように、西洋における自然科学は、単に唯物的な側面だけで進歩してきたわけではない。

 

その時代、時代で、背景となる思想もともに進歩を遂げているのである。

 

デカルトやニュートンにしても、彼らの研究の目的は神の存在の証明であった。

 

現代人の目からは、哲学や科学の枠組みから逸脱して見えても、思想的背景に裏づけされた研究は目的そのものが明確だから、ぶれることがない。 

 

 

 ところが日本人の場合は背景となる思想が希薄なため、どこに向かう研究なのかが明確でない。

 

ともすると進む方向に迷いが生じる。

 

その結果が日本人の東洋思想偏重に現れているのかもしれない。

 

 

 1945年8月15日以降、和魂という唯一の支えまで失った日本人が、東洋思想に回帰しようとしたのは仕方がない。

 

もちろん、私は東洋思想そのものを否定するつもりはない。

 

しかし現代に生きる医師がその使命を忘れ、東洋思想にのめりこんでもらっては困る。

 

現代医学の目的は、あくまでも科学に則った病気治療であるべきだ。

 

日本の医師の実に8割もが科学的根拠もないまま、漢方薬を処方しているらしいが、EUではすでに2011年5月から、中国の漢方薬は全て薬品として認められなくなっている。

 

同じ現代医学の医療でありながら、この彼我の差はいかがなものか。

 

 

 そもそも現在の漢方薬は、中国の文化大革命の折、かの毛沢東によって構築されたものである。

 

毛沢東の共産主義政権下では、科学を主体とした国家作りを推進していたので、宗教は完全に否定された。

 

当然のこととして、漢方医学も排斥の対象となるはずだった。

 

ところが当時の中国には、西洋医学を導入して全土に普及するだけの力がなかった。

 

そこで窮余の策として、すでに全国で認知されていた漢方医学を医療に転用することにしたのである。

 

 

 だがその頃の中国では、漢方医学はすでにかなり衰退していた。

 

そこで毛沢東は、漢方薬を日本で独自に発展させて体系づけた、和方の薬を漢方薬として導入したのである。

 

これが今の中国の漢方薬であり、中医薬と呼ばれているものの実体だ。

 

 

 ところがこの経緯を多くの日本人が知らない。

 

漢方薬は中国5千年だかの歴史に裏づけされた、ありがたい薬だと誤解している。

 

医師を始めとする自然科学の研究者の多くも、漢方医学には長い長い思想の積み重ねがあると思い込んでいるようだ。

 

 

 だが彼らにしても、実際に東洋思想に特別な思い入れがあるわけではない。

 

自分のキャリアに5千年の歴史とやらを上乗せすることで、手っ取り早く自己の評価を高めたいだけだろう。

 

その短絡的な思考方法こそ、和魂洋才の弊害そのものといえる。

 

本音では今の医療に限界を感じ、東洋医学に逃避しているだけなのだ。

 

にもかかわらず、そういう医師のほうがもてはやされる風潮にも問題がある。 

 

これでは天文学の研究に行き詰まった学者が、占星術師に転じて人気を得るようなものではないか。

 

医師の目的、医学の目的はなにか。

 

安易な逸脱は、患者にとって不利益となるのだから、われわれは患者の立場としても、医学の行く末を注視すべきものだと思う。

 

(花山 水清)

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