メールマガジン月刊ハナヤマ通信 Vol.325 2013/11
「医学が進歩したおかげで人間の寿命が延びた」といって胸を張る医師は少なくない。
だがなぜ人間の寿命が延びたかについては諸説ある。
個々の疾病はともかくも、人類全体の寿命となると、社会が豊かになって住環境が整ったことや衛生状態が良くなったこと、食糧事情が改善されて栄養状態が格段に向上したことの影響のほうが大きいはずだ。
また医学といっても、実際に進歩したのは機械工学によって開発されたCTやMRIなどの医療検査機器である。
たまたまレントゲンやCT検査で患者の重大疾患を見つけ、うまく処置したことで延命につながることはあるだろう。
その反面、検査で何も見つからなかった大多数の人たちは、放射線による被曝で寿命が縮んでいるのである。
そうするとトータルで計算してみれば、医学が寿命を伸ばしたとはいえないかもしれない。
医学が寿命を延ばしたというのは、パチンコや競馬で勝った話に似ている。
一度でも勝てば、それまでどれだけ負け続けてきたかをすっかり忘れてしまうのだ。
確かに医学は日進月歩か、それ以上の勢いで進歩してきた。
しかしそのことと寿命の延びとを結びつけるのにはむりがある。
検査機器だけではない。
抗生物質の開発以来、薬学の進歩も著しい。
さまざまな新薬が開発され、多くの人がその恩恵に浴してきたことも事実である。
だが、薬が人間の寿命を延ばしたかどうかとなると、これにも疑問符がつく。
薬を飲めば、薬害や副作用によって寿命を縮めることもある。
経口薬の多くは、その通り道である胃腸の粘膜を傷つけて、胃腸障害を引き起こす。
またほとんどの薬は肝臓で分解され、腎臓を経由して排出されるから、肝臓や腎臓でも大なり小なり障害を引き起こしている。
漢方薬や健康食品にしても、安全だと思い込んでいる人は驚くほど多いが、当然のごとく副作用が存在するのだ。
だから私は、市販薬の服用など全くのムダだと考えている。
いざというとき、この薬がなければ死んでしまうというような薬は、薬局では売っていない。
薬局で売っているのは、かぜ薬や消化薬、鎮痛剤などのように、ほとんどが症状の一時的な緩和が目的で、病状を根本的に改善するものではない。
「毒にも薬にもならない」という表現があるが、市販薬の場合は治療薬として機能しないのに、重篤な副作用はしっかりと存在するからたちが悪い。
それならだまって寝ているほうがましだ。
一人静かに病床に伏し、なぜこの症状に至ったかをつらつらと省みて、それを今後の生活の指針とすべきである。
特にこれからの季節は、「かぜには○○」「早めの△△」などというCMが繰り返し流れるだろうが、この世にはかぜを治す薬も、予防する薬も存在しないことを忘れてはならない。
もし、薬局で買ってきたかぜ薬でかぜが治ったと思っているなら、それは薬に対する信仰心のおかげであって、薬そのものの効果ではない。
もちろん、医師が処方する薬にも無駄なものが多い。
「念のために」とか「とりあえず出しておきましょう」といって、不必要な薬を安易に処方する。
高齢者などは何カ所も病院をかけもちしているので、10種類以上の薬を服用していることも珍しくない。
なかには同じ薬がダブって処方されていることもあるから、非常に危険である。
しかも高齢者はまじめに薬を飲むので、副作用によって新たな症状が増える。
それで調子が悪くなっても薬のせいだとは考えないので、別の科を受診する。
そこでまた新たな薬を処方される。
そしてまたまた、その薬の副作用を抑える薬が処方される。
こんなことを日常的に繰り返すから、雪だるま式に薬の種類も量も増えていくのだ。
特に高齢者は代謝や排泄機能が低下しているので、副作用も重くなりやすい。
それは当然、寿命にも影響してくるはずだ。
ただし薬がどれだけ人間の寿命を縮めているかについて、大規模調査が行われたことはない。
日本だけでも1万6千品目もの薬が売られているそうだから、全てを対象にした調査など到底不可能だろう。
まして、それぞれの薬の飲み合わせまで考慮すれば、寿命への影響の調査などどう考えてもむりだ。
もちろん調査されないからといって、薬の悪影響が存在しないわけではない。
実際に薬の副作用に苦しんでいる人は、とんでもない数、存在するのである。
前回もお伝えした通り、レントゲンやCTなどの医療被曝による寿命への影響が、最近になってやっと証明され始めた。
それでも大多数の医師は、検査の必要性にしか目を向けない。
ここでさらに、処方薬が患者の寿命を縮めていたことまでわかれば、医療の正当性は大きく揺らいでしまうだろう。
しかし当分そんな事態になることはなさそうだ。
多くの人にとって、医師や薬への信頼はあいかわらず昔ながらの「薬師信仰」の延長である。
薬さえ飲めば病が癒され、医師の勧める通りに病院で欠かさず検査を受けていれば、寿命が延ばせると固く信じている。
逆に安全を考慮して薬を出さないような医師を、「ヤブ医者」呼ばわりする患者もいるほどだ。
こんな状況では、医学で寿命が延びるかどうかは別として、今後も医療費が伸びることだけは確実なのである。
(花山 水清)
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